酔いどれ甘々


「クラトスさん、おかえりなさぁい!」

ぼすん、とその小さな身体がクラトスの腕の中に収まった。
あー、やっばいなぁ、どうしよう。
ぷん、と依都の身体から漂う酒気に気が付いたらしいクラトスの視線が、じろりとこっちに向いた。

「あー、ついうっかり」
「『うっかり』?」
「ごめんなさい、クラトス。私が目を離した隙に」
「犯人はゼロスですよ、クラトス」
「ほぅ」
「いやだから、本当に出来心だったんだよ!」

まさか酎ハイ一杯であんなぐでんぐでんになるなんて!
えへー、と可愛らしい声を上げながらクラトスに抱きついた依都に目を向ける。
あーぁ、あぁやって俺様にも抱き付いてくれたら良かったのに!

「おいおい、ゼロス。反省の色が見えないぞー」
「いや、ちょっと待て、ガイ。なんでお前が切れてんだ!」
「そりゃあ、男の悲しい片思いってものですよ、ゼロス」

胡乱気な瞳をこちらに向けてきたガイに突っ込む。頬、と言うか、目尻が赤いから多分酔っているのだろう。
そんなガイの片思いの相手───依都を目の前に暴露したのはけろりとした顔のジェイドだった。
ちらりと依都を見れば、クラトスの身体に腕を回して抱き付いたままこちらの喧騒には目も向けず。
………ほんっとーに俺様ったら、馬鹿やっちゃったかも。

「依都、ガイが抱き付いてほしいってさ。あ、ついでに俺様も宜しく」

語尾にハートマークが付くよう調子を上げて言えば、依都がクラトスから腕を離してこちらに半身翻した。
女性恐怖症からか顔を青くしたガイは、その後依都が抱き付いてくれるかもしれないと言う期待から更に顔色を赤く変えるという忙しい芸をこなして、ちらりと依都を見る。
依都は酔った勢いで淡く色付かせたその目尻を下げ、綺麗な笑顔で、

「や」

と短く拒否してきた。
ひ、表情は可愛いのに………!

「ガイさんもゼロスさんも、ディーヴァくんが警戒するから、や、です」

酔っているわりにははっきりとした口調とその声。
依都、本当に酔ってる………?
少し疑って、だけど言われた言葉を反芻したら意外とショックだった。
俺様は『息子』以下か………!
ショックを受けていると、隣から何かが転がった。ガイだ。
依都に拒否された所為で変な風に酒が回ったんだろう。真っ青な顔で机に突っ伏した。
………合掌。

「クラトスさん、クラトスさん」
「なんだ」
「おかえりなさい」
「………………ただいま、」
「はい」

挨拶が途中だったからか、依都がまたそれを口にする。
クラトスが返答すれば、安心したのかへにゃんと笑った。
それからまた、ぎゅっとクラトスに抱き付く。
………ガイ、起きてなくって正解かもしれねぇな。
いつもの依都なら有り得ない行動に、そりゃあもう、酒が進む進む。
ちらりと周りを見れば、面白さ半分に見てるのがユーリとジェイド、微笑ましそうに見てるのがウッドロウとリフィル様、どうでも良さそうなのがハロルドってところだ。

「クエストで、ディーヴァくんばっかり、クラトスさんにべったりなの、ずるい」
「依都」
「だからわたしも、べったりします!」

いや、別にディーヴァはそう言った意味でべったりはしてねーと思うんですけどそれは野暮な突っ込みってヤツかねぇ。
なんだかんだ言ってクラトスも満更じゃなさそうだし………?
………なんて納得はいかないわけよ、俺様は。
俺様はこんな展開を期待して依都に酒を飲ませたわけじゃない!
依都はただクラトスに抱きついているだけ。
クラトスからは抱き返していない。
───なら、

「依都!」
「!」

後ろから腕を伸ばして小柄な身体を抱き締める。
あら、と呟いたのはリフィル様。
あーあ、と呟いたのはユーリだった。
腕の中に収まる小さな身体を抱き締める腕にさらに力を込めれば、鳩尾に鋭い衝撃が走る。

「───触るな、屑が!」

しぃん、と空気が凍る。
鳩尾に決まった依都の肘打ちに気を取られたけど、あれ、今の台詞、依都から出た………?

「ふふ。ふふふふー、アッシュ君の真似です。似てました? 似てました?」
「………あぁ、そうだな」
「あんまり良い言葉じゃないのはわかるんですけど、ふふ、こォいうタイミングに使えば良いんですねぇ〜」
「依都、アッシュみたいになっちゃいますよ?」
「大丈夫です〜」

アッシュ君みたいなツンデレさんじゃあないもぉん、なんて舌っ足らずになってきた依都の口調を聞きながら鳩尾を抑える。
い、いい肘打ちじゃないの、依都ちゃん………!!

「クラトスさん、ぎゅっとしてください!」
「?!」
「依都、それはちょっと、どうなの?」
「止めないでください、リフィルせんせい。わたしもクラトスさんにべったりするんですぅっ」
「依都、」
「やっです、クラトスさん」

いつまでも動かないクラトスに痺れを切らした依都がぎゅっとして、とクラトスに両手を伸ばす。
クラトスは視線を軽く泳がせた後、依都を抱き上げた。
なーにーあーれー、ズルいだろっ!

「ふふっ」

嬉しそうに笑ってからクラトスさんの首に腕を回した依都を見て、また鳩尾を撫でる。
俺様、やられ損じゃない?!

「えへー、ぎゅぅう」

甘えるようにクラトスさんにすり寄る依都は、そのまま身体が力を抜いた。
こてん、とクラトスの肩に額を添え、薄く口を開いてからくぅ、と小さな寝息が漏れる。
………やっぱり俺様、やられ損じゃない!
そう思って顔を上げれば、クラトスの冷めた視線が飛んできた。

翌日、依都が顔を真っ赤にして謝ってきたのでどうやら記憶はあるらしい。
とりあえずアッシュの真似が俺様のガラスのハートに突き刺さったので二度と依都には酒を勧めないようにしよう。













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酔ったら甘ったれになる主人公でお送りしました。
ネタ提供ありがとうございました!



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