ナチュラルらしいです


お母さん、と差し出された手に手を重ねて、きゅう、と力を込める。
まだそんなに足に力が入らないから、ディーヴァくんに頼りながら歩く。
一歩一歩、正確にしっかりと踏みしめて。
それでもぐらりと身体が傾げた。
ひゃ、と声が漏れ、転ける、と思ったら、後ろから身体を支えられる。

「あー、お父さん!」
「え、クラトスさん………」
「何をしているんだ」
「これからクエスト行くんだ。お父さんも行こ?」
「───クエスト?」

低い声がさらに低くなる。
そうして鋭い視線がわたしに向いた。
ぎくっ、と肩を震わせて、思わず視線を逸らす。

「依都」
「はあい」
「その状態で行くのか、クエストに」
「………うぐ、」
「お父さんも行こ! ね?」
「ちょ、ちょっと空気読んで下さい、ディーヴァくん!」
「空気は吸うものでしょ?」

首を傾げられて、なんてコメントして良いかわからず口を閉じる。
間違いじゃない。間違いじゃあないけれど………!
そうじゃないんだよ、ディーヴァくんっ。

「………………わかった」
「クラトスさんっ、」
「やったあっ! ほらお母さん、もっと!」

掴まっているのに、さらに密着するように言われる。
ぴとりとディーヴァくんにしがみつくようになると、ディーヴァくんがにまにまと笑った。




   □■□




「今日からこっちのギルドに移ったんだ。宜しく頼む。俺はスタン・エルロン、こっちがルーティ・カトレット、そっちが」
「リオン・マグナスだ」
「宜しく〜」

ディーヴァくんやクラトスさんの手をたいっへん煩わせながらクエストを終えてバンエルティア号に帰ってきたら、新しい人が来ていたらしく、金髪ロングのエルロンさん、黒髪女性美人カトレットさん、黒髪男性美人マグナスさんが挨拶に来てくれた。
うわぁあ………! 本当に美人。
ぽっかーん、と口を開けて固まるわたしとディーヴァくんの背を、クラトスさんが無言のままぽんっと叩いたのではっとして我に返った。
い、いけない、恥ずかしい………!!

「は、初めまして、依都です」
「ディーヴァですっ。で、こっちがお父さぶへっ」
「クラトス・アウリオンだ」
「知ってるわ。親子でしょう?」
「誰ですか、そんな嘘言ったの!」

カトレットさんが首を傾げながら言うので即座に繰り返す。
いや、皆まで言わなくてもわかるっ。アニーミさんとアニスちゃんだ!

「ちょ、違いますからねっ」
「あら、違うの?」
「もー。いいじゃん、お母さん」
「いや、あのですね、ディーヴァくん。わたしの精神面が宜しくないんです」
「ねぇ、お父さんももう良いよね」
「良くはないな」
「えぇー」
「『えぇー』じゃありません!」

ぷくっと頬を膨らませるディーヴァくんにぴっと指を突き付ける。
するとディーヴァくんがその手をきゅっと掴んで、上から潤んだ瞳でわたしを見てきた。

「お母さんは、俺の『お母さん』になるの、いや?」
「え、いや、そんなことは言ってないですけど」
「じゃあ、良いじゃん」

いや、良くはないんですけど。

「えっと、スタンとルーティとリオンだよね。宜しく!」
「僕は慣れ合うつもりはない」
「もう、リオン? そういう言い方したら駄目じゃない」
「うるさいっ」
「………あ、あの、」
「ん? どうしたんだ、依都」

ディーヴァくんがカトレットさん、マグナスさんとお話している間にそっとエルロンさんに話しかける。
すると彼は朗らかな笑顔を浮かべながらわたしを見下ろしてきた。

「あの、さっきの嘘、誰まで広がってます?」
「んー、あぁ、フィリアとウッドロウさんまでかな」
「その2人も捜して誤解を解かないと………!」

きゅっと握り拳を作ると、エルロンさんがくすくすと笑った。

「フィリアは科学室にいるはずだよ」
「ありがとうございます、エルロンさん」

ぺこっと頭を下げてから部屋を出ようと踵を返すとふらりと足元が揺れる。
身体が崩れる前にクラトスさんが支えてくれて、倒れずに済んだ。

「あっ、ありがとうございます、クラトスさん」
「あぁ」
「………ん? お母さん、どっか行くの? 俺も行く!!」

マグナスさんとお話していたディーヴァくんがぱたぱたと走ってくる。
そしてきゅう、とわたしの手を大事そうに握った。

「うん、これなら大丈夫。行こう、お父さん」
「科学室だったな?」
「あ、はい。………それでは失礼しますね、お三方。これから宜しくお願いします」

笑みを浮かべて三人に行ってから、ディーヴァくんに手を引かれながら部屋を出る。
そんなわたし達の背を見て、エルロンさんがぽつり。

「親子だなー」

へくしゅ、とわたしが小さなくしゃみをしたのはここだけの話。



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