めりくり!


「えぇと、どうしましょうか、クラトスさん」

困ったように眉を寄せてこちらを見上げてくる。
胸元で手を重ねて握り締める依都に静かに息を吐いた。
そっと剣の鞘に手を伸ばしてかちりと鍔を鳴らす。

「行くしかなかろう」
「で、ですよね」

どもった依都はそっと目を伏せて息を吐き、それからゆっくりと再びこちらを見上げてきた。

「宜しくお願いします、クラトスさん」
「あぁ」

深く頭を下げた依都に、小さく応えた。




   □■□




しゃかしゃかしゃか。
ユーリに習いながら生クリームを混ぜる。
お母さん、喜んでくれるかな。
喜んでくれると、嬉しいな。
そう思って、しゃかしゃかしゃか。
あまいあまい生クリームがさらに甘くなるよーに。
お母さんみたいに、甘く甘くなるよーに。

「へへ、」

急に笑った俺をじぃっとユーリが見てきた。
その視線が気になってそちらを向けば、ちょっと迷惑そうな顔をしてる。
え、なんで?

「急にケーキ作りたいとか、急に笑い出すとか、どうしちまったんだ?」
「変なこと言うなぁ、ユーリ」
「『変なこと』?」
「俺が笑ってると言えば?」
「依都とクラトス絡みか」
「うんっ」

今日はなんでも、くりすますっていう日らしい。
お母さんが言うには、ごちそーをいっぱい食べるとか。
俺はまだごちそーは作れないから、でも、ユーリっていう師匠がいれば絶対ケーキは作れるって思った。
だからケーキ作り。
お母さんが好きな甘いもの。
いっつも作ってもらうの俺だから、今日は俺が作るんだ。
しゃかしゃかしゃか。
『つの』が立つまで混ぜて、へらを止めた。
スポンジは俺なんかじゃあ焼けないから、カノンノに頼んで焼いてもらったので、それを冷蔵庫から取り出す。
───よし、頑張るぞ!

「で? お前の最愛のご両親はどこに行ったんだ?」
「………わかんない。なんか2人でどっか行っちゃった。ガイはなんか聞いてる?」
「ん? いや、なにも聞いてないぞ?」

さく、と俺が作るケーキのためにフルーツを切ってくれていたガイが、手を止めて顔を上げた。
無駄に爽やかな表情にちょっとむっとする。
俺もああいう爽やかさが欲しいなぁ。

「あ、でもルカを連れて行ってたな」
「ルカ? 火力大の剣士を連れてどこ行ってんだ?」
「しかも俺置いていった………」

自分で言って、思わずしゅん、とする。
なんでお父さんもお母さんも、俺のこと置いて行っちゃったのかな。
今日は『くりすます』なんでしょ?
なのに、なんで一緒に居られないのかな。
スポンジを眺めて固まった俺の背を、ユーリがぽん、と叩いた。

「まぁ、あの両親が何を考えてるかはさておき、お前はケーキを作るんだろ?」
「ユーリぃ………」

うるりときたので思わずユーリを見つめる。
するとユーリが眉を寄せてこちらを見返してきた。スッゴい嫌そうな顔で。

「お前にそういう顔されても困る」
「???」
「ははっ。まぁ、それはわかるけど言っちゃ駄目だろ、ユーリ」
「あぁ………。だな」
「ちょっと! もう、2人とも、なんなの?!」

ユーリとガイが目を合わせて語り合う。
意味わかんない、なんなの………!!
むすっとしながら、ユーリの言うままに手を動かす。
………だめだめだめ。
こんな感情のままケーキ作っても、お母さんに「美味しい」なんて言ってもらえないよ。
ふるふると首を横に振る。
そんな俺を見て、ユーリとガイが首を傾げていたけど、知らない振りをした。

「お母さんに喜んでもらえるよう、俺、頑張らなくっちゃ………!」
「意気込みすぎてケーキ潰すなよ」
「はーい」

ユーリの言った注意点を気にしながら、生クリームとガイに切ってもらったフルーツを盛り付けていく。
後ちょっとで完成だよ、お母さん。
もうちょっと、待っててね。

「ただいま戻りました」
「! お母さん!」
「どうしたんですか、ディーヴァくん。鼻の頭に生クリーム付いてますよ」
「え、うそ」

恥ずかしい、と拭ってからお母さんを見る。
何やら大きな袋を持っていた。………後ろに居るお父さんやルカもそうだ。
なんだろう。

「さすがにパーティー料理は難しいので、買っちゃいました」
「それって………」
「はい、ご馳走です」
「なんだ、良かった。俺置いてクエスト行っちゃったんだって思ってた」
「………行ったんだよ、クエスト」
「ルカ?」
「あ、ルカくん、内緒にして下さい!」

かぁっとお母さんの頬が赤く染まる。
………なんで?

「お母さん、なんで秘密なの?」
「う、」
「お母さん………」

じぃっとお母さんを見る。
お母さんは困ったように眉を寄せて、それからお父さんを振り返った。

「………これを買うのに手持ちが足りなくてな」
「あっ、クラトスさんっ」
「それで僕が巻き込まれたんだ………」
「ルッ、ルカくんっ!」

お父さんとルカにばくろされたお母さんは顔を赤くして縮こまった。
………あ。

「俺が『くりすます』の話聞いて、パーティーしたいって言ったから?」
「………わたしもしたかったんですよ、ディーヴァくん」
「───!! お母さん、大好き」
「わあっ」

持っていた生クリームのボールを投げ打ってお母さんに抱き付く。
甘やかされてるなぁ、俺。
もう、お母さん、本当に大好き!

「ディーヴァ、」
「うん? なあに、ユー………」
「どうしてくれるんだ、お前………」

ぽん、と肩を叩いてきたのはユーリ。
振り返れば、飛び散った生クリームをあちらこちらに付けていた。
それはガイも同じで、にっこりと笑って俺を見る。
………えへ。

「お母さん、お父さん、あのケーキ、食べてねっ。ちょっと逃げてきます!」
「あ、ちょ、ディーヴァくん?!」
「待てこら、ディーヴァ!」

片付けていけ、と追い掛けてくるユーリとガイから逃げるように食堂を出る。
帰ってきた頃には、お母さんとお父さんからケーキのかんそーが聞けたらいいな。
えへへ、めりーくりすまーす!!












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寂しいお財布事情のお話っぽくなりました。
偽親子はイベント事を書くのが楽しいです。



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