必要性が感じられない



お皿洗って、洗濯物やって、たまにキールさんやナトウィックさんに戦術指南をしてもらって、それからたまにディーヴァくんに「お母さん」と呼ばれる。
ファンタジーな世界で生きることに抵抗がなくなってきたということに気が付いた。
そんな日々に、嵐がやってくる。




   □■□




どォ……ん、とお腹に響いた声に、ぱちぱちと目を瞬く。
パニールさんの隣で皿を洗っていたわたしは、驚きのありお皿を落とす、なんていう失態を犯すところだった。
ふぅ、とため息を吐けば、あらあら、とパニールさんが言葉を漏らす。

「一体何事かしらね」
「さぁ………。見に行ってみます?」
「そうねぇ。どうしましょうか」

くすくすと笑うパニールさんはぱたぱたと羽をはためかせていたのを見て、あぁ、行かないんだな、と心の中だけでぼやく。
暇と言えば暇だけれど、野次馬根性はそこまで強くない。
最後の一枚を洗い終わると、しゅん、と扉が開く音がしたのでそちらを見れば、きらきらと瞳を輝かせたディーヴァくんが立っていた。

「お母さん、重要任務!」
「急遽おやつでも必要になりましたか?」
「んーん。じんめーきゅーじょ!!」
「『人命救助』………?」

舌っ足らずに響いた言葉を繰り返せば、ディーヴァくんはこくんと頷いた。
それからすっとわたしに手を伸ばしてくる。

「お母さん、行こー?」

いや、ちょっと待とうか少年。
ちらっとその目を見れば、期待に満ちた瞳をしていた。
え、いや、うん。ちょっと待って。
人名救助にわたしは必要? いや、怪我人がいた場合を考えれば回復役は必要かもしれないけど、わたしより優秀な回復役はたくさん居ると思うんだけど。
でもなんでわたし?

「依都、早く準備しろよ」
「ハーシェルさん」
「人名救助は迅速に、よ。依都」
「ナトウィックさんまで」

ディーヴァくんの後ろからひょこひょこと顔を出した2人は、そのままじいっとわたしを見てきた。
え、なにこの行かなきゃいけない雰囲気。
って言うか、ナトウィックさんいるならわたし要らなくない?

「あぁもう、焦れったいわね!」
「え」
「さぁ、行くわよ、ディーヴァ!」
「ん!」

いつかと同じ様に腕を引かれる。
わぁあ、と悲鳴を上げると、

「皆さん、気を付けて下さいね」

なんておっとりしたパニールさんの声に、死亡フラグが立った気がした。
うう、あんまり行きたくないよぅ。

「あぁ、依都も一緒に行くんだね」
「ミルダさん………」
「うう、僕に助けを求めないでね」

助けられないからね、と言われて、はい、と弱い笑みを返せば、ミルダさんも力無く笑った。

「もう、笑い合ってる場合じゃないでしょ!」
「あ、はい」

ナトウィックさんの一言に、皆、気を引き締めて船を降りた。
わ、わたし、必要あるかなぁ、本当に。



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