触れられる喜び


寂しいと泣いている子を見つけたんです。
それはディーヴァくんじゃなくて、だけど、どこかディーヴァくんに似ていて───というか、あの時の、そう、ディーヴァくんがちょっとおかしくなって、粘菌の巣に走っていった『あの時』のディーヴァくんに似ている子です。
でも、ディーヴァくん達とは間違い無く違う部分があって。
それは、『寂しい』と言えないこと。
寂しいのに、それを寂しいと理解せずに泣いているんです。
あ、いえ、実際に泣いているわけではないんです。だけど、わたしには泣いているようにしか見えないんです。
だけど、手が、伸ばせないんです。
何故かはわからないけれど、手が伸ばせないんです。
触れてあげたいのに、何故か手を差し伸べてあげることが出来なかったんです。
触れてさえあげれば、きっと。

「『きっと』?」

先を促す。
僅かに熱に魘されながら話す依都の手を握った。
弱々しい力で握り返してきたのを確かめ、再び依都を見る。

「きっと、声が、存在が、温もりが、彼に伝わると思うんです」
「そうか」
「だから、」

だから触れてあげたかった。
それなのに触れてあげられない。
そう呟いて、依都はこちらに視線を寄越した。

「悔しい」
「………『悔しい』?」
「何も教えてあげられないのが、悔しい」

すっと目を閉じると目尻からほろりと涙が落ちた。
それを拭ってやれば、依都はゆっくりと目を見開く。

「………時にクラトスさん」
「なんだ」
「わたしはいつまで医務室ですか?」
「少なくとも熱が下がらない以上は無理だな」

きっぱりと言ってやれば、依都は熱の籠もった息を深く深く吐いた。




   □■□




「お母さん!」
「あ、ディーヴァくん………」
「お母さん、どう? ………あー、まだ熱あるね。まだ医務室卒業は無理かぁ」

しゅん、と肩を落としたディーヴァくんに思わず苦笑する。
なんだかとても申し訳ない。

「さっきまでクラトスさんが居たんですよ」
「知ってる。さっきすれ違ったよ」
「そうでしたか」
「あっ、お母さん、身体起こしちゃ駄目」

アッシュくんが座っていた椅子にクラトスさんが座り、その後ディーヴァくんが座った。
お見舞いに来る人がころころ変わって、ちょっと大変。

「お母さん」
「はい、なんでしょう」
「お母さんは、俺のお母さん、だよね………?」

不安そうに響いた声に、ぱちくりと目を瞬く。
う、うん………?

「お母さんは、俺のお母さんだよね? アイツのお母さんには、ならないよね?!」
「アイツ………?」
「アイツだよ」

むっすぅ、と膨れたディーヴァくんに、首を傾げる。
アイツって一体、誰………?

「んー、まぁ、お母さんがわかってないなら良いけど………」
「ディーヴァくん?」
「お母さん、早く体調治してね。それで一緒にクエスト行こうね」

きゅうっと手を繋いで言ってくれたディーヴァくんにこくん、と頷く。
わたしも早く元気になりたい。
またディーヴァくんとクエストに行きたいな。

「じゃあ、しっかり療養して、ちゃんと元気にならないとですね」
「うんっ。じゃあさびしいの、我慢するね」
「………寂しい、ですか?」
「さびしいよ。お母さん居ないと、さびしい」

しゅん、と気落ちして笑うディーヴァくんに、ゆっくりと手を伸ばした。
普段は大きくて穏やかなのに、なんだかとっても小さく見えるその身体を労るように、ディーヴァくんの頭をぽんぽん、と優しく叩く。
熱のために高い体温を宿したわたしの手がさわさわと動いた後、その手をディーヴァくんが掴んだ。

「お母さん」
「はい、なんでしょう」
「熱あるのに、ごめんね。無理させてごめんね」
「………大丈夫ですよ」

改めて自覚すると体調が悪くなっていくような気がするから嫌だ。
そんなわたしに気が付いたのか、ディーヴァくんが手を離して立ち上がる。

「先生、呼んでくる!」
「え。………あ、いえ、ディーヴァくん!」
「ん、なあに」
「ちょっと、」

くるりと振り返ったディーヴァくんを手招く。
そうして、傍に寄ってきた彼の頭を再び撫でた。

「寂しい思いをさせてごめんなさい」
「………うん」
「だからディーヴァくん、」
「なあに、お母さん」
「ディーヴァくんがクエスト行った時のお話を聞かせて下さい」

アッシュくんが居たときもわたしの容態を聞くだけで医務室から出ていってしまった。
そして今回もそれだけだったら、

(さびしいのは、わたし、かな)

自覚したら泣きそうになる。
お母さん、と呼び掛けてくれたディーヴァくんに手を伸ばす。
戻ってきたディーヴァくんの手に手が触れて、思わず目を閉じた。
………彼にもこうやって、触れられたら良かったのに。



- 43 -

[] |main| []
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -