ハロウィ〜ン


黒のノースリーブワンピースに、七分袖の裾にフリルがついているボレロを重ね着して、脹ら脛までを覆うピンヒール………なわけはなく、普通にちょっとだけヒールが高いブーツを履いて、木の杖を握り締める。
今日は、収穫祭です。




   □■□




グランマニエにある小さな街では、わたしが居た世界のハロウィンに近い行事が習わしとして伝わっているそうで、ルークがみんなにその話をしたら、若い子達がノッちゃったので急遽参加することになった。
仮装をしなければならないのだけれど、そんな衣裳みんな持ってるわけなくて、即席あり合わせで参加する。
クエストをやる以上、ズボンが多かったりするから、スカートがちょっと新鮮な感じがしてならない。

「お母さん、こっち」

襟の立てた黒いマントに身を包んだディーヴァくんに呼ばれたので傍に行けば、ぽふっと何か被せられた。
わわ、なぁに。

「パニールが作ってくれたんだよ、お母さん」
「………? わっ、尖り帽ですか!」

被せられたそれを一度外してまじまじと見る。
黒一色の尖り帽の鍔の根元に、にっこりと笑うオレンジ色のパンプキンが存在感を放っていた。

「かわいい」
「それ被ったお母さんもかーいいよ」
「ディーヴァくん………」

お世辞とわかっていても頬が赤くなる。
あぁ、なんだか恥ずかしいなぁ。
パンプキンが前から見えるように気を付けて被り、ディーヴァくんを見上げる。
ディーヴァくんはきょろきょろと辺りを見渡して、それからぱぁっと表情を明るくした。

「お父さん!」
「ディーヴァか」

こつん、と靴が地を蹴る音がして、そちらを見ればクラトスさんが居た。
その顔を見て、否、その頭を見て、からん、と手から木の杖が落ちる。
え、え、え………?!

「耳っ、え、耳っ?!」
「………あぁ、これか」

鳶色の髪からひょこりと覗く狼の耳をぴんっと引っ張ったのはクラトスさん本人だった。
しかしその仕草とは違って響いた声は余りにも固く、思わず心配になる。

「クラトスさん………?」
「ハロルドがねー、お父さんに薬飲ませたんだ。そしたら生えちゃった」
「生えちゃったじゃなくて………! ってかベルセリオス博士はなんつぅ薬を………! じゃなくて、身体はっ!」
「依都?」
「身体に影響はないんですか、クラトスさん!」

耳が生える薬なんて、身体に悪影響はないのだろうか。
いや、ベルセリオス博士の腕が凄いのは良くわかるんだけれども。
思わずクラトスさんの懐に入るように駆け寄って見上げれば、すっと目を細められた。

「大丈夫だ、身体に影響はない」
「そうですか、良かった…」
「あぁ。生えたのも耳だけだ」

薄く笑むクラトスさんにほっと安堵する。
それならまだ、いい。

「………じゃ、じゃあ、」
「どうした」
「触ってみたい、です」

駄目ですか、と伺えば、クラトスさんは少し視線を鋭くして、腰を曲げてくれた。
おずおずと手を伸ばし、その耳に触れる。
ふにふにしていて、気持ちいい。さらに言うなら、ひくひくと触られて微かに反応してるのが可愛い。

「お父さん、俺も」
「あぁ」

クラトスさんがうずうずとしたディーヴァくんに呆れながら了承したので、ディーヴァくんはすっと手を伸ばしてわたしの手の上からそっとクラトスさんに付いた耳に触れた。
………いや、ちょっと待とう。
なんでわたしの手に手を重ねるの、ディーヴァくん!

「ディーヴァくん、わたし、手を抜きたいです」
「もぉちょっと」
「いや、あの、」

別にわたしと一緒に耳に触れる必要はないと思うんだけどな、ディーヴァくん。
しばらくふにふにと弄くって、ようやく満足したのかディーヴァくんの手が離れていく。
ほっとため息を吐いてからわたしも手を離すと、はい、とディーヴァくんから落としたままだった木の杖を渡された。

「行こ」
「え? あ、はい」

収穫祭では、夏祭りみたいな屋台も出るみたいで、ディーヴァくんはそれが一番の目的だったはず。
急かされても仕方ない。
………さっき手を重ねたのも、実は急かしていたのかな?

「お父さんはお母さんの手、繋いでいてあげてね」
「は?」
「え、」
「お母さんが迷子になっちゃったら大変だもん」

それはどういう意味で?!

「わ、わたしって、そんなに信用ないんでしょうか………」
「だってお母さん、小さいんだもん」

悪意のない一言がグサリと胸に刺さる。
ちがっ、わたしが小さいんじゃないよっ。ディーヴァくんがおっきいんだよ!
むっと膨れると頭上から吹き出した音が聞こえた。
え、え、なに。え?

「クラトスさん………?」
「これではどちらが『親』かわからんな」
「………もうっ!」

だからってなんで吹き出すの………!
ぴくっと震える獣耳がなんとなく気に入らない。
あぁ、もうっ………!

「ディーヴァ、行くのだろう?」
「うん!」
「依都」
「ふぇ、」

膨れるわたしを無視してディーヴァくんに確認を取ったクラトスさんはそのままわたしに片手差し出してきた。
え、

「お母さん、行くよー」

ディーヴァくんはそう声を掛けたらさくさくと歩き始めてしまった。
ディーヴァくんの背とクラトスさんの手との間をおろおろと視線をさ迷わせ、きゅっと口を閉じる。

「………迷子予防、お願いします」
「あぁ」

意を決してそう呟いて、クラトスさんの大きな手を握りしめた。
収穫祭は、始まったばかり。












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主人公→魔女
ディーヴァ→ドラキュラ
クラトス→狼男
な仮装でございましたー。



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