叫んだ少年



「ねぇ、クラトス」

呼び掛けてきたのはリフィルだった。
なんだ、と問いを返せば、リフィルは薄い笑みを浮かべる。

「ディーヴァが依都と貴方を特別視しているのは何故かわかる?」
「──────」
「クラトス?」

ついと目を細める。
あいつが、ディーヴァが依都を特別視する理由、か。
それはただ1つ。
彼女がこのグラニデに居る理由でもある。
だがそれは、

「何れわかる」
「何れって。───つまり貴方はわかっているってこと?」
「さあな」

ディーヴァが何であるか、依都がディーヴァにとって何なのか、それはまだ、知られる必要はあるまい。

「クラトス、貴方一体何者なの?」
「お前に雇われた傭兵。それだけだ」

納得がいかない、という顔をしたリフィルから逃れるように私は前を歩くロイド達に歩みを向けた。




   □■□




ほら、と差し出されたのは紙とペン。
ありがとうございます、と受け取って、わたしはグランマニエの方々がお泊まりしている部屋で縮こまっていた。
な、なんでティアまで居るのかな。
え、えええ。
しかもティアの顔が怖い。なんで。

「ティ、ティアー? なんか怖い顔してるよ」
「依都、辛かったら我慢しないで言うと約束してくれる?」
「ふへ、」
「体調が悪くなったらすぐに言ってね。そのために私は居るのよ」
「あ………。うん、わかった」

ティアの優しさにえへへ、と笑えば、ティアが軽く頬を染めてわたしの頭を撫でてきた。
うえ、うええ。

「おいおい、ティア。それじゃあ始まらないだろ?」
「ガイ、」
「あ、えと、ガイさん、宜しくお願いします!」
「ああ」

女性に触れられないガイさんは少し離れて微笑む。
対面してテーブルを挟み、ガイさんが椅子に座った。
その姿さえなんだか格好良い気がして、思わずきゅっと口を閉じる。
いけないいけない、集中しなくっちゃ。

「ディーヴァからモンスター図鑑を借りてきた。画が有った方が良いだろう?」
「わっ、はい。ありがとうございます」

どさり、と置かれたそれはディーヴァくんがいつも持ち歩いている重たいそれ。
わわ、改めてみるとなんか凄いかも。

「好きなページを開いてくれ」
「はい、」

よいしょ、とページを開く。
そこに描かれていたのは、キラービーだった。
文字を見て、と言われたのでじっと文字を眺める。
英語でもローマ字でもないこの世界特有のそれらを眺めて、改めて首を傾げた。
わっかんないなぁ。

「まずは形を覚えよう」
「う? あ、はい」
「書いてみるかい?」
「んっ」

とっさにペンを握る。
万年筆のようなそれと、わたしが知っている紙とは程遠いその紙を見て、気付かれないよう息を吐いてから、真似るように文字を書いてみる。
思わず眉間に皺が寄って、ガイさんにもティアにもくすくす笑われた。
うわぁん、これでもこっちは真剣なんだから!

「これがキ、」

そこから始まって、ラ、ー、ビ、と形の一括りを教えられる。
教えられたところでわからず、うぅ、と小さく唸った。

「あのね、依都」
「な、なあに、ティア」
「1回で覚える必要はないの。ゆっくりゆっくり、噛み締めれば良いのよ」
「うん」

ティアの優しい言葉に、こくこくと頷く。
でもやっぱり、わからないものはわからない。
そりゃ確かに、これ1回でわかるはずがないのはわかってる。
後はあれか、わたしのやる気の問題なのかな。
ふるふると首を横に振って、頭の中身を切り替える。
せっかくガイさんとティアが時間を作ってくれてるんだから、わたしがやる気を出さなくちゃ!

「依都?」
「ううん、何でもない、頑張る!」

きゅ、とペンを握りしめ直したわたしに、ティアがくすりと笑った。
わ、また、笑われた………!

「そんな力まなくても大丈夫だよ、依都。ほら、リラックス」
「う、あ、はい」

こくこく、と頷けば、ガイさんはついと目を細めた。
その刹那、シュッ、とドアがスライドする。
居たのは、ディーヴァくんだった。
だけど、彼は俯いていてその表情が見えない。
? ………どう、したのかな。
ディーヴァくんが入り口に立っているためにドアは閉まらない。
ガイさん、ティアと1度お互いを見合ってから、それから再びディーヴァくんを見た。
ぐっと顔を上げたディーヴァくんは、鈍い色をその瞳に宿している。
そう、鈍く、暗く、冷たい色を。

「ディーヴァく、」
「お父さんが、」
「クラトスさんが?」
「おいおい、ディーヴァ。クラトスがどうしたんだ?」
「お父さんが浮気した!」

………はい?
ムスッとしたディーヴァくんの発言の首を傾げる。
え、クラトスさんが『浮気』………?

「何を馬鹿げたことを言っている」
「あいた!」
「あ、クラトスさん」

ぽか、と後ろからディーヴァくんの頭を叩いたのはクラトスさんだった。
呆れたような声と口調。
───あぁ、クラトスさん、帰ってきたんだ。
と、思って口を開こうとしたら、部屋に入ってきたディーヴァくんに腕をがしり、と掴まれた。

「ふぇ、」
「行こう、お母さん!」
「おい、ディーヴァ!」
「待て、ディーヴァ。まだ話は、」
「───うるさい!」

ディーヴァくんらしからぬ、鋭い声が響いた。
え、と思ったときには遅く、ディーヴァくんに引きずられるように、わたし達はバンエルティア号を降りた。
わたしの腕を掴む手が震えていることに、ディーヴァくんは気付いているだろうか。



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