ディーヴァくんに手を引かれたままバンエルティア号に帰れば、何故か会う人会う人にため息を吐かれた。
えぇ、なんでっ。
「依都、」
「はい、なんでしょう。ヴァレンスさん」
「その、具合でも悪いのか? 顔色が優れていないように見えるのだが」
「………気のせい、です!」
「そ、そうか?」
身体が怠いだけで、中身は元気なんだよね、わたし。
だからまた医務室送りになるのはごめんだし。
「心配してくれてありがとうございます。倒れない程度に気を付けて頑張ります」
「そうだな。倒れたら意味ないからな」
「はい」
ふ、と静かに笑ったヴァレンスさんはぽむぽむとわたしの頭を叩く。
そんなヴァレンスさんを伴って食堂へと足を向けた。
「パニール、おやつー!」
「こらこら、ディーヴァくん。帰ってきたら『ただいま』が先でしょう? ただいま帰りました、パニールさん。お仕事、お手伝い出来なくてすみませんでした」
「お帰りなさい、2人とも。手伝いなんかいいのよぉ、依都さん。今日のおやつはフォンダンショコラですよ」
やった、と弾んだ声を上げたディーヴァくんに笑みを零して、クエスト後のおやつを楽しむのだった。
□■□
フォンダンショコラと、わたしの顔色を見たパニールさんが特別に淹れてくれたホットミルクとを食して、わたしはふぅ、とため息を吐いた。
心は元気なのに、何故かわからないけれど体調は良くない。
これじゃあ本当に単なる病弱だ。
困ったな。わたしは病弱なんかじゃないのに。
「御馳走様でした」
「でした!」
両手をそっと揃えると、ディーヴァくんも倣って両手を揃える。
それからえへへ、と笑った。
「あらあら、ご機嫌さんね、ディーヴァさん」
「だって、パニール。お母さんが傍にいるんだもん。嬉しいよ」
「………ディーヴァは、本当に依都が大好きなのだな」
ほんの少し、翳りがある表情を見せたヴァレンスさんに首を傾げる。
どこか寂しそう。そして、羨ましそうだ。
ヴァレンスさん………?
「大好きだよ。お母さんも、パニールも、クロエもみんな、大好き」
「っ、」
「あらあら」
にっこり笑って言ったディーヴァくんの言葉に、かっとヴァレンスさんがその両頬を赤く染めた。
頬に手を添えてうふふ、と笑うのはパニールさんで、ぱたぱたとディーヴァくんの近くまで飛んでいったと思ったらそのままディーヴァくんの頭を撫でている。
あ、いいな。わたしもディーヴァくんを撫でよう。
そう思ってディーヴァくんの頭を撫でれば、ディーヴァくんはぽやりと頬を少しだけ染めて笑い直した。
「そういえば、依都さん」
「はい、なんでしょう」
「最近体調が思わしくないようだけれど、一回ちゃんと療養をしたらどうかしら」
「………と、言うと?」
「クエストも食事の手伝いもしない日を設けたらどうかしら、と思ったのよ」
きゅ、と口を閉じる。
療養の日、かぁ。
「うーん、」
何もしないと言うのがわたし的にイマイチなんだけれども。
だって、みんな働いているのに。
そりゃ、ちゃんと体調を調えないとそれこそ迷惑掛けることになるのはわかってる。
だけど、
「今日これからと明日1日、休んでみたらどうだ?」
「ふぇ、」
「えー。じゃあ、俺もお休みする」
「ディーヴァ」
「む。睨まないで、クロエ」
ぶつぶつと文句を言うディーヴァくんはつん、と口を尖らせてぷい、と顔を反らせた。
あらら。
「ディーヴァくん、別にわたしと一緒に休む必要はないんですよ?」
「でも、」
「そうですねぇ。わたしが療養すれば、ディーヴァくんがクエストをする時、ちゃんと見送れるし、お迎えも出来るんですね」
言えば、ディーヴァくんはぴたりと身体を固めた。
それからゆっくりとわたしの顔を見て、「本当?」と聞いてくる。
本当ですよ、と言えば、ディーヴァくんはしゅん、とうなだれた。
………?
「お母さんとクエストしたいけど、我慢するね」
「ディーヴァくん………!」
「───と、言うことは、これから明日までは依都は休息日ってことかい?」
「っ!」
急に響いた驚いてドアを見れば、ガイさんが眉間に皺を寄せて立っていた。
え、あれ。なんか不機嫌?
「ほら、ルークから預かってきた」
「あ。ありがとうございます」
ガイさんが差し出してきたのは、わたしがルークに預けっぱなしにしていたキールさんお手製の冊子だった。
それを受け取ると、ガイさんは少し深めのため息を吐き出す。
あれ、やっぱりなんだか不機嫌だ。
「ガイさん?」
「ん? あぁ。………なぁ、依都、ルークから聞いたんだが、文字が読めないんだって?」
「う、」
「そうなのか、依都?」
「俺も読めないよー」
ヴァレンスさんの問いはわたしにしたものだったけれど、答えたのはディーヴァくんだった。
そうだ、わたしも彼も読めないんだ。
「ディーヴァはまぁ、頑張れ」
「? うん」
「それで、依都」
「はい」
「休息日に、俺と勉強なんてどうかな」
例えば文字とか、ね。
なんて首を傾げながら目を細めて笑ったガイさんに、わたしは即座にこくりと頷いた。