今宵君を、


現代+怪盗パロ




「なぁ、依都、新聞見たか?」
「新聞? 読んだけど?」
「昨日も出たってな、怪盗ディセンダー」
「ぶふっ」
「………何吹いてんだ、依都?」
「ふぇ、うぇ、ごめん。何でもないよ、ルーク」

後輩であるルークが新聞片手にわたしの元にやってきたのはお昼休みのことだった。
か、怪盗ディセンダーって、やっぱり名前、ダサいよね。

「ねね、ルーク。ルークはその、怪盗ディセンダーについてどう思う?」
「どうって、ウチに違いなきゃ気になんねーけど」
「あ、そっか。ルークの家、お金持ちだったっけ」
「そう。まぁ、ウチは不正なんかしてないから狙われることねーだろうしな」

ぱん、と紙面をルークが叩く。
そこには、『怪盗ディセンダーは義賊か?!』と言う大きな見出しが書いてあった。




   □■□




「こんにちはー」

学校が終わった後、とあるアンティークショップに直行した。
そこの店主とはもう顔見知りだったし、何よりわたしが用があるのはこの店の2階である。

「お帰り」
「あ、た、ただいま、です。クラトスさん」

店主のクラトスさんが薄く笑う。
別にこのアンティークショップに住んでいるわけではないから『お帰り』、『ただいま』である必要はないんだけど、これはある種の合い言葉だった。
ドアに掛けられた札をcloseにして、クラトスさんと一緒に2階にあがれば、ソファーに座った少年が1人。
今、巷を騒がせている怪盗ディセンダー───ディーヴァくん、その人だ。

「お帰り!」
「はい、ただいまです」

ちなみにわたしの従弟に当たる子でもある。

「ねー、姉様(あねさま)。今夜も出ていい?」
「へ? レディアントの情報でも手に入ったんですか?」
「いや、まだだが………」
「いーの。とにかく、盗みたいものがあるの」

ディーヴァくんはわたしを『姉様』と呼ぶ。昔は『お母さん』と呼んでいたから、それに比べればマシになったものだ。
そして、彼が学生兼『怪盗』なんて職に付いた理由は、今の会話の中にある。
───レディアント。
ディーヴァくんの本当のお母さんであるグラニデさんの遺品の名前。
3年前、グラニデさんが亡くなった時に何者かに盗まれてしまったのだ。
犯人はわかってる。バルバトスという人物だ。
だけど、バルバトスは盗んだレディアントを所謂裏ルートで売ってしまったらしい。
困ったことに裏ルートに関わる人達は大概不正を働いていたりするから、正式ルートからレディアントを返してもらうことは不可能だったらしく、結果、怪盗になったと言うわけで。
そしてさらにその結果、盗みに入った家の不正が表に出てきちゃうわけで………。
昼間ルークが持っていた新聞に書かれたように『義賊』扱いがされ始めたけど、実際には単なる私情だったりするからとっても申し訳ない。
だって、やっぱり結局は犯罪だから。

「ねーぇ、姉様。予告状書いてよ」
「クラトスさんに下調べしてもらったんですか?」
「んーん」
「え、ちょ………。クラトスさん、どうします?」

クラトスさんはグラニデさんと昔から知り合いだったらしく、ディーヴァくんが『怪盗になる』と言い出したら手伝ってくれている人だ。
そして、レディアントの情報も彼が収集してくる。また、盗みに入る家の下調べもクラトスさんの仕事だったりするのだ。

「ディーヴァ」
「なに」
「お前は一体何を盗みたいのだ?」
「………………ろ」
「『ろ』?」
「………女の子の心!」
「「ちょっと待て」」

頬を赤く染めて言い切ったディーヴァくんにクラトスさんと一緒になってツッコミを入れる。
え、え? レディアント、関係ないの?

「ってか、待って下さい、ディーヴァくん。それ、何なんですか。色恋沙汰はわたしの管轄外ですからね!」
「私もだ」
「えぇ、なんで! 手伝ってよ!」
「だ、大体、わたしになんて予告状書かせようとしたんです?!」

わたしの仕事はパソコンで予告状を書くことだ。
簡単だけれど、印刷等の際に触れないように、指紋を付けないように気を付けなくてはならない。

「こ、『今宵、君を頂きに参ります』」
「「頂いてどうする!」」
「なんでハモるの!」
「だ、だって『頂く』って誘拐ってことでしょう? 女の子1人隠すスペースなんてどこにも有りませんし、逃亡資金だって無いじゃないですか!」
「全くだ。そもそもお前は、怪盗の自分を好いてもらいたいのか?」
「え、」

ぴた、とディーヴァくんが固まる。
ん、んん?
………あぁ、そっか。予告状出したら、怪盗ディセンダーとして、その女の子を頂きに行くわけだから、それはディーヴァくんを好きになってもらうのとはワケが違う。
ディーヴァくんは、どっちなのかな。

「だ、駄目! カノンノには、俺を好きになってもらうのっ」
「じゃあ、頑張って下さいね、ディーヴァくん」
「うん! じゃあ、行ってくる!」
「はい?」

笑顔を浮かべたディーヴァくんはソファーから慌てて立って階段を駆け降りて行った。
あああ、もう。

「ディーヴァくんの未来がすごく心配なんですが、どう思いますか、クラトスさん」
「同感だ。こんなことならば無理矢理金をかき集めて高額でレディアントを買った方がまだマシだったな」
「お金だけでレディアントを取り戻せたら良いんですが、ね………」

すべてのレディアントを取り戻すにはまだまだ時間が要りそうだった。








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怪盗パロなのに全く盗んだシーンを描いてません。
書きたかったのはディーヴァくんの「今宵、君を〜」のところだけでした。
犯人バルバトスとか、すみません。
この後ディーヴァくんはカノンノに猛アタックしてきます。



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