きっと大丈夫



「っつーか、依都、いきなり実践で大丈夫か?」
「へ、あ、うん。大丈夫、頑張る」
「そっか。あんま無理すんなよ」
「まァた、医務室送りになったりとかな」
「もう、怒りますよ、ベルフォルマさん!」
「お母さん、見て見て、オリーブ採れた」

鎌を片手に採取できたそれを見せてきたディーヴァくんによかったですね、と返せば、ベルフォルマさんがにやりと笑った。

「本当に親子だな、お前ら」

からかうようなベルフォルマさんの口調にふくりと頬を膨らませたのはディーヴァくんだった。

「俺がお母さんを『お母さん』って呼べなくなったらどうするの、スパーダ!」
「いや、どうもしねぇよ」
「これだから不良は!」
「え、ベルフォルマさん、不良なんですか?」
「さぁな」

にやり、と再び不穏な笑みを浮かべたベルフォルマさんに、あぁ、ぽいなぁ、と苦笑いだけを返した。




   □■□




「は、ハートレスサークル!」

敵の攻撃が当たらず、だけれど回復したい人達から離れすぎない。
その感覚は思った以上に難しく、思わず眉を寄せた。
少しでも気を抜けば、回復役のわたしが怪我をしかねない。
ここで怪我したらまた医務室送りだ、と緊張しながら回復術を掛ければ、戦闘終了後、ディーヴァくんにぽむぽむと頭を叩かれた。
え、なあに?

「お母さん、緊張してる」
「え、えぇ、まぁ」
「大丈夫。俺がお母さんを守るから。ね?」
「ありがとうございます」
「お、俺も! 俺もちゃんと、守ってやるからな」
「ルーク………」

余程緊張していたのが見て取れたんだろう。
ディーヴァくんとルークに励まされつつ、ふぅ、とため息。
すると、かちん、と鍔を鳴らして剣をしまったベルフォルマさんの手がすぅっとわたしに伸びてきた。

「報酬があるなら守ってやるぜ?」

ぐっと肩に腕を回され、ふぅって耳に息を掛けられた。
ぎゃああ!

「お母さん!」
「うお、ちょっと待て、斧は投げるな、ディーヴァ! スパーダも依都をからかうなっつの!」

ベルフォルマさんに斧を投げようとしたディーヴァくんを止めつつ、ベルフォルマさんにも突っ込みを入れたルークに賞賛を送りたい。
そしてわたしは、未だにベルフォルマさんに捕まったままで動けずにいた。

「あ、ああの、ベルフォルマさん。離して下さい!」

近い近い近い!
っつーか、ここダンジョンだから!

「スパーダ、離れて」
「わぁったよ」

親離れできねェな、と言う呟きを残してベルフォルマさんは離れた。
ふぅ、と少し深めのため息を吐いてから、赤くなった頬に手を添える。
恥ずかしいなぁ、もう。異性と引っ付くなんてこっちは慣れてないんだから!
な、何か、気を紛らわすこと言わなきゃ………!

「お母さん、範囲回復だけ覚えるの?」
「へ? は、範囲じゃない回復………あぁ、単体回復、ですか? ファーストエイドのような?」
「うん、そう」
「ホーリーブレスやメディテーションは単体回復でしたよ?」
「他の。ヒールとか、キュアとか」

え、そんなに種類あるの?
ちらりとルークを見れば、キールさんがまとめた冊子に目を通していた。

「あ、あった」
「んじゃ、俺に掛けてくれよ。ちょうど良い練習台だろ?」
「え、へ、あ、」
「まずはヒールからな。………えーと、単体中回復だから、ファーストエイドよりは詠唱が長い点に気を付けること。ただし、範囲指定がないので離れていても対象者に掛けられるのが利点」

腕を組んで術が掛けられるのを待つベルフォルマさんにオロオロしていると、ルークが注意点を読み始めた。
え、あ、う。
きゅ、と口を真一文字に閉じてから、杖の先にマナを集める。
回復回復………ファーストエイドよりは回復力があって、詠唱が長くて、でも傍にいる必要はない。

「そう、そのまま集中して、」
「唱えて。『ヒール』だよ、お母さん」
「───ヒール!」

ふわりふわり、柔らかい光がベルフォルマさんを包む。
ぱちりと瞬いた時、くらりと身体が傾げた。

「おい!」
「は、あれ、」

膝が折れた後、地面にへたり込む前にベルフォルマさんが支えてくれた。
ずきずきと痛み出した頭をそっと押さえると、ディーヴァくんがぱたぱたと走って傍に寄ってきてくれる。

「お母さんっ!」
「大丈夫なのか、依都」
「おいおい、医務室送りがシャレになんねぇぞ」

支えられたまま、変な体勢にならないようにと地面に座らせてくれた。
ふぅ、と深いため息を吐いて息を整える。
すると、はい、とディーヴァくんが何かを差し出してきた。

「オレンジグミとキュアボトルと紅茶クッキー」
「………その組み合わせは一体、」
「TP回復と状態異常回復、だな」
「きっと元気になるよ、お母さん」

にこにこ笑いながら言ってきたディーヴァくんに、そんなもんかな、と思いつつ、それらを受け取った。
───そう、だよね。
これで治るんだと思って食べれば、きっと効くよね!

「では、ディーヴァくん。遠慮なく頂きます!」
「………気持ち悪くなっても知らねぇからな」
「右に同じく」

ベルフォルマさんとルークの発言はスルーしてグミを口に含んだ。
治りもしなかったけれど悪化もしなかったのだから良かったと思う。



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