親睦会………?



大人数を収容した食堂は、それはそれは凄かった。
ぽかん、と口を開けて固まっていると、ディーヴァくんが音を立てて椅子から立ち上がる。

「お母さん、お父さん!」
「ディーヴァくん、」
「ここ来て、ここ。ケーキ、美味しいよ」
「あぁ、口の周りが生クリームだらけに」

べったりと口の周りに生クリームを付けたディーヴァくんに向けて歩き出し、ポケットからハンカチを探った。
ディーヴァくんの隣が空いていたのでそのまま座り、ディーヴァくんにも座ってもらってから口の周りをハンカチで拭う。
ん、とか、あぅ、とか言いながら拭われるディーヴァくんに思わず笑うと、クラトスさんがわたしの隣に座った。

「はい、綺麗になりましたよ」
「ん」
「ほいよ、『お母さん』?」
「へ、」
「なんでユーリがお母さんをそう呼ぶの。それは俺のトッケンなの!」
「へぇ、そりゃあ、悪かった」

後ろから手が伸びてきたかと思ったら、こと、と真っ白なお皿の上に乗せられたフルーツタルトが置かれた。
ぱちぱちと瞬いてそれを見て、それから手を伸ばしたその人を見上げる。
わたしと同じ、長い黒髪の青年だった。

「ユーリ・ローウェルだ。宜しく頼む」
「ローウェルさん、」
「ユーリで良いぜ。ほら、食えよ」
「あ、はい、頂きます」

机に身体をしっかり向ければ、フルーツタルトが輝いて見える。
ちらりと隣を見れば、クラトスさんの前にはガトーショコラが置いてあった。
その反対を見れば、ディーヴァくんは生クリームたっぷりのショートケーキにフォークを突き刺している。

「頂きますっ!」

ととっ、その前に。

「あの、わたしは依都といいます。これから、宜しくお願いします、ローウェルさん」

半身翻して言えば、ローウェルさんにぽむぽむと頭を叩かれた。




   □■□




「お母さんのタルトだー」
「ふふ、一口食べますか?」
「お母さんが食べてからちょいだい?」

首を傾げながら言ったディーヴァくんにこくりと頷き返して、さくりとタルトにフォークを刺した。
一口大に切ってからぱくりと口に含めば、フルーツの甘さとシロップの甘さがじわりと広がった。
お、美味しいよぅ。

「美味しい?」
「美味しいですよ」

言いながらお皿をディーヴァくんの方にズラせば、ディーヴァくんはぱあぁ、と顔を明るくさせてフルーツタルトにフォークを伸ばす。
けれど、そのフォークが宙で止まってしまったので首を傾げた。
どうしたんだろう。

「お母さん、俺のもあげる」

フォークを一回引っ込めたディーヴァくんは、自身のショートケーキが乗ったお皿をわたしに差し出してくる。
遠慮するのも悪いので、素直に一口もらうことにした。

「美味しい! 美味しいね、お母さん」
「はい」

にこにこ笑うディーヴァくんは本当に幸せそうで、でもその口周りがどうしても汚くなってしまっていたりするのが子供っぽくって、思わず笑った。

「なあーにぃ、お母さん」
「いえいえ、豪快な食べ方をするなぁ、と思いましてね」
「ごーかい?」
「生クリームが付いてますよ」

ん、て小さく返したディーヴァくんは、ぺろり舌を伸ばして生クリームを食べた。
あぁもう、だから豪快な食べ方って言ったのに………。

「ディーヴァ、はい、追加です」
「ありがと、エステル」

こと、とチーズケーキをディーヴァくんの前に置いたのは、ピンク色の髪の女の人だった。
え、あれ、どちら様だろう。

「あ、初めまして。わたし、エステリーゼと申します。エステルって呼んで下さい」
「あ、はじ、初めまして。依都です」
「はい、ディーヴァのお母さんですね」
「あくまで呼称ですのであしからず」

間髪入れずに断りを口にしたら、エステルさんはくすくすと笑った。

「おひょーしゃんのもちょうらい」

ディーヴァくんがフォークをくわえながらそう言うと、クラトスさんは黙ってディーヴァくんにガトーショコラを差し出した。
ディーヴァくんってば何個食べるつもりなのかな。ってかよくわかったなぁ、クラトスさん。

「依都ー」
「はい? どうしました、ルビアさん」
「手が止まってるけど、どうかした?」
「………ディーヴァくんの食べっぷり見てたらお腹いっぱいで」
「大丈夫?」

わたしの目の前に座っていたルビアさんが首を傾げる。
たいへん申し訳ないけれど、あまり食が進まない。
うーん、普段ならそんなことないんだけどなぁ。

「残しても良いのよ? あたしが食べるから」
「本音がいっそ清々しいですよ、ルビアさん」

言いながらも彼女にフルーツタルトを差し出した。

「うぅ、作った人に申し訳ないです」
「別に気にすんなって。食えるときにまた作ってやるよ」
「ふぇ?」

後ろから伸びた手は、暖かい紅茶をわたしの前に置いた。
その手の主はローウェルさんで、え、あれ、また作るって?

「これ、ユーリの手作りなんだよ」
「えええ!」
「不法侵入したお詫びなんだよ」

罰金、罰則よりは気が楽なんだって、とチーズケーキを食べながら説明してくれたディーヴァくんを見、ローウェルさんを見上げると苦笑された。
え、えええ。

「親睦会って、そういう意味ですか」

なんか間違ってる、という言葉は紅茶と共に飲み込んだ。



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