相談しよう



リフィル先生が出した依頼が何だか心に引っかかって、凄くもやもやする。
今のところその依頼に手を伸ばす人は居ない。
チャット船長の手元を覗き込めば、その依頼書は他の依頼書と違って何やら判子が押してある。
え、あれ。もしかして、重要任務………?
思わず口を閉じる。
あ、でも、違うのかな。うー、文字が読めないって不便かも。

「チャット船長、それ、」
「リフィルさんが出した依頼ですが、どうしました?」
「………重要任務、ですか?」
「えぇ、まぁ。内容が内容ですからね」

ラルヴァ生成の助手兼護衛なんて。
ため息混じりに言ったチャット船長の言葉に、わたしは顔をしかめた。
重要任務って、今までずっとディーヴァくんがやってきた。
もしこのまま誰もこの任務をやらなかったら………?

「チャット船長、それ貸して!」
「へ?」
「い、良いから、良いから貸して下さい!」

ディーヴァくんの目に触れる前に、何か考えなきゃ。
そう思ってわたしが紙を片手に言った場所は、機関室隣の廊下だった。




   □■□




スライド式の扉を半開して、ひょこりと顔を覗かせる。
目的の人物は居た。───クラトスさんだ。
目を閉じて、何か思案するように黙り込んでいるので、声を掛けるか躊躇われる。
うぅ、えぇと、

「───何か用か」
「っ!」

壁に背を預けたまま言われ、びくっと肩を揺らした。
ば、バレてる………。
きゅ、と口を真一文字に引き締めてから、意気込んで廊下に出る。
しゅん、と後ろでドアが閉まった。

「ク、クラトスさん、その、相談があるんですが、」
「相談? ………私にか?」
「は、い。今、大丈夫ですか?」

借りてきた依頼書を握りしめてしまわないよう気を付けながら顔を上げれば、クラトスさんは預けていた背を壁から離した。
あ、うん、大丈夫、なのかな。

「あの、これなんですけど、えと、リフィル先生が出した依頼で、えぇと、ラルヴァ生成の護衛と助手をするやつなんですけど、」
「受けるのか?」
「あ、いや、そのえっと、」

実施するのは3日後らしい。
いや、そこはどうでも良いのだ。そんなことより問題は、

「あのですね、その、」
「───依都」
「っ、」

ぐっと両肩を掴まれる。
痛みに顔をしかめた後に、ひゅ、と息を飲んだ。
言わなきゃ、言わなきゃ。

「あの、わたしが受けるわけでも、その、クラトスさんに受けてほしいわけでもないんです。ただ、これがラルヴァ生成の依頼だから、」
「あぁ」
「だから、ディーヴァくんの目に晒したくないんです」

ラルヴァを怖がったディーヴァくんの目の前で、ラルヴァの生成なんて酷だ。
単なる虐めでしかない。
でも、重要任務はいつもディーヴァくんが受けていた。
だから、ディーヴァくんの目に晒されなければいい。
そうは言っても、誰かに受けてもらうにはチャット船長にこれ返さなきゃいけない。
でもそうなるとディーヴァくんが知っちゃうかも、という心配が出て来るわけで。
わたしが受けることが出来たら一番だ。だけど、自分の身も守れないようなわたしじゃ単なる足手まとい。
だからどうしよう、と思ってクラトスさんのところに来たのだ。

「………待て、依都」

すっと肩から手が離される。
いっそう低く響いた声に、ぱちりと目を瞬かせた。

「なぜそれを私に相談しに来た」
「え。………あれ?」
「どうした」

え、あれ。なんでだろう。
えぇと、なんか、その。

「ディーヴァくん関連だからクラトスさんに………?」
「は?」
「そう、たぶん。たぶんそれが根拠? だと思います」

特にこれと言った理由はない。
だけどなんか、そう、クラトスさんに相談しようと思った。
………んん?

「まぁ、いい」
「ふぇ」
「私が受けよう。───コレット、」
「うん、なあに、クラトス」
「っ!!」

背後にいたコレットにクラトスさんが声を掛けた。
まさか後ろに誰か居るなんて思わなかったので、びっくぅっと肩を揺らす。
え、え。

「コ、コレット………」
「うん、わたしだよ? 依都、だいじょぶ?」
「だ、大丈夫、だよ」

ちょっと、大丈夫じゃあないけれど、まぁ大丈夫、かな。

「それでクラトス、なあに?」
「クエストだ」
「あ、」
「リフィル先生の?」

ぴん、とわたしの手から依頼書を奪ったクラトスさんはそのままそれをコレットに渡した。
あああ、

「依都も受けるの?」
「私とロイドが受ける」
「わかった。わたし、頑張るね!」
「え、あ、いや、ちょ、勝手に決めて良いんですか?!」
「? だいじょぶだよ、ロイドだもん。誰かが困ってたら、手を貸してくれるよ。それに、依頼主は先生だから、うん、だいじょぶ」

にこ、と笑うコレットに、そんなもんなのかな、と視線を泳がせた。
そりゃあ、リフィル先生の依頼に応えられない己のいたらなさが一番悪いのだけれど。
でも、でも、

「あれ、ここに居たの?」

しゅん、とドアが開いた先に居たのはカノンノさんだった。
わたし、クラトスさん、コレットという珍しいのかそうじゃないのかわからない組み合わせに、カノンノさんはくるりと目を丸くする。

「どしたの、カノンノ」
「今ね、食堂で親睦会やってるんだ」
「『親睦会』?」
「なんでも、不法侵入者との親睦会だって」

え、なにそれ。
よくわからないけれど、とりあえず食堂に行くことになった。



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