「お、もう無事なんだな」
「大丈夫ですよ、ガイさん」
「なんだよ、依都。心配させんなよ」
「すみませんでした、ハーシェルさん」
「依都ってば身体弱いわねー」
「いや、弱くないですから、ルビアさん」
「じゃ、クエスト行くか?」
「それはまた今後で、カイウスさん」
「依都さん、無事で良かったです」
「ミントさん、心配してくれてありがとうございます」
「ちょっと依都、アンタね、無理に息子に付き合う必要ないのよ?」
「次から気を付けます、アニーミさん」
あああ、もう!
「わたしは大丈夫ですからっ。クエストに関してはまた今度!」
お疲れ様でした、と言って食堂から出る。
うう、このままじゃあ、パニールさんのお手伝いもろくに出来ないじゃないかっ!
っていうか、出来なかったじゃないか!
「た、助けて下さい、チャット船長!」
「あ、依都さん。もう大丈夫なんですか?」
また言われた、と嘆けば、チャット船長はくすくすと笑い出した。
□■□
「大変ですね、依都さん」
「皆さんの心配性っぷりに少し驚いてます」
「それだけ好かれてるんですよ、依都さん」
食堂から逃げてきたわたしの事情を聞いたチャット船長はやっぱり笑っていた。
「そ、れは、とても有り難いんですが、」
「なんでそこで照れ入るんですか、依都さん」
だってだって、そんな、嬉しいし、恥ずかしいし、照れ入るなって方が難しいよ。
赤く染まる頬を隠すように両手を頬に添えれば、依都、とミルダさんに呼ばれた。
「え、あ、何でしょう、ミルダさん」
「あの、本当にもう大丈夫なの?」
「健康児ですから」
「健康児は急に倒れないからね」
「え、あ、ごめんなさい」
そうだ、わたし、ミルダさんの目の前でぶっ倒れたんだっけ。
いやいや、あれも倒れたくて倒れたわけじゃなくて、えぇと。
「依都さんって、本当に医務室と仲良しですよね」
「仲良くなりたくてなってるわけじゃないです」
「えぇと、最初の重要任務と今回の重要任務と、終わった後に必ず医務室だったね」
「計算しないで下さい、ミルダさん」
好きでお世話になってるわけじゃないもん。
ぶちぶちと文句を言えば、チャット船長もミルダさんも何故か笑い出した。
う、うん?
「最初の遠慮っぷりがやっと解けてきましたね」
「え、あ、」
「これで依都さんも立派に海賊の子分になってきたわけですね!」
「チャット、それ違うと思うけど、」
「だっ、だって、ここ、暖かいじゃないですか」
実家は違うけど、『帰ってきたい場所』と言うか、『家族』と言うか、それぐらい、安らげる場所だから。
そう言うと、今度はチャット船長が照れ入った。
帽子の鍔を掴んで、くいと下げる。
「そ、それは良かった。何よりです」
ぷいと顔をそらせつつ呟くチャット船長に、笑みを返す。
うん、ほら、直接的な言葉で言われると恥ずかしいよね。
「あ、依都ちゃーん」
「うわっ?!」
「無事? 無事? 大丈夫? もぉ俺様心配し過ぎて夜も眠れなーい」
「………ゼロスさんて、本当に口が達者ですよねぇ」
「なんで冷たいの、依都ちゃん」
後ろから急に抱きしめられて、暖かく迎えてあげられるほど大人じゃありません。
だって、ほら、ミルダさんがオロオロしてる。
「ゼロス、何してんだよ、依都が困ってんだろ」
「ロイド、」
「えー、何、ロイド君。焼き餅?」
「怒るぞ、ゼロス」
「へーへー」
言いながらも離れないゼロスさんをどうしようと悩んでいると、いで、と鈍い声が響いた。
「ほら、行くぞ、ゼロス。………なぁ、依都」
ぐいぐいとゼロスさんの腕を引いたロイドがじぃ、とわたしを見てきた。
え、なにかな。
「無茶、すんなよ」
くしゃりと前髪をかきあげるように頭を撫でらる。
それからロイドはにっこり笑って機関室から出て行った。
撫でられた頭をそっと手で抑える。
ああもう、
「恥ずかしいなぁ、もう」
「………依都、」
「? なんです、ミルダさん」
「ロイドの事は呼び捨てで、敬語じゃないんだね」
「………………わかった、変えるよ。ルカくん、これで良い?」
首を傾げて聞けば、ルカくんは控えめに小さく笑った。
「あら、依都。起きていて大丈夫なの?」
「何ともないって判断したのリフィル先生じゃないですか」
「ふふ、そうだったわね」
ホールから降りてきたリフィル先生は、何やら紙を持っていた。
ううん、あれ、なんだろう。
「チャット、依頼を出して良くて?」
「えぇ、構いませんよ」
どうやらあの紙っぺらは依頼のそれらしい。
今回はどんな内容なのかな。
「ラルヴァの生成方法が解明したから、作ってみようと思うの」
「え、」
「リフィルさん、それは………」
「ラルヴァの素(もと)、その危険性、調べつくしてみせるわ」
その瞳は、間違いなく研究者の瞳だった。