無事であれ



「資料を手に入れたよ。これで、何かわかればいいけれど」

わたしを背負いながらアルベインさんが言うもんだから、内心ひやひやものだった。
それでもリフィル先生はわたしを無視して、資料に目を通して、「ジェイドと探ってみる」とか言ってくれたから、お咎めなし! と喜んだのも束の間。

「それで、どうして依都は背負われていて?」

リフィル先生がかすかに微笑みなから聞いてくるもんだから、誰も何も言えずに明後日の方向に視線を飛ばした。
い、言えるわけがない。

「依都は医務室が大好きなのね」
「うぇ?!」
「クレス、彼女を医務室に運んで頂戴。あぁ、先約がいるから、椅子に座らせておいて」
「えぇ、わかりました」

先約? と首を傾げたわたしに、リフィル先生は少し深いため息を吐いた。




   □■□




アルベインさんに医務室まで運んでもらい、大人しく椅子に腰掛けていたけれど、まさかな先約に、わたしは1人心の中でテンパっていた。

(眠れる森の美女ならぬ美青年が先約なんて聞いてません、先生!)

ちくしょう、寝てて画になる青年ってなんだそれ。
きゅ、っと口を閉じる。
この世界で出会う人みんな、男の人は格好良くて(ミルダさんやカイウスさんは可愛いの部類だけど)、女の子は綺麗で可愛い美人さんなんて、眼福過ぎて毎日わりと困ってる。
わたし、この顔でここに居ていいのかな、という劣等感を抱くぐらいに。
アドリビトムのメンバー、顔で選んでんじゃないのって感じだ。
………したら尚更ここには居られないじゃないか、むぅ。
それにしても、

(苦しそう)

赤い髪をベッドの上に泳がせた美青年は、時たま眉を寄せて呻いている。
こういう時、どうしたら良いのかな。
寝づらいのか、本当に辛そうな青年に手を伸ばす。
掛け布団の上に出ていた手をきゅっと握り締めてみた。
えと、具合が悪い時に他人の温もりを感じると、安心するよね。わたしはするんだよね。
そう思って、きゅう、と改めて握り締めた。
少しは気が休まれば良いんだけど。
それから反対の手を伸ばして額に掛かる赤く長い髪を払えば、ふ、と静かに息を吐かれた。
………少しは良くなったかな。
───早く良くなりますように。
どういう理由でここに居るのか知らないけれど、医務室に居るんだから体調不良は間違いない。
だけどここは、外部からの影響を受けにくいところだから、ゆっくりと体調を治せばいい。
医務室にお世話になることが多いわたしが言うから間違いない。ここは、本当に安全だったから。

「依都」
「っ、」
「驚かせて悪いわね。大丈夫?」
「はい、大丈夫です」

いつの間にか入室していたリフィル先生に名前を呼ばれてびくりと肩を揺らした。
それが手から伝わって寝ている青年の睫が震えたので、慌てて手を離そうとする。

「!! ………。………………???」

離そうとしたのに、手が離れない。
わたしが握っていた手は気が付けば彼に握られる形になっていて、眠っているのにも関わらずその力は強い。
え、あ、え。

「依都、そのままで居て頂戴」
「ふえ、わっ、」

頭を撫でられるように髪の中に手を入れられる。
やわやわと頭をマッサージするようにぎゅっぎゅっと押され、痛みに顔をしかめた。

「鈍い痛みはない?」
「ん、なんか気持ち良くなってきました」
「あら。じゃあ頭は大丈夫そうね」

もみもみと揉まれてくると、指圧マッサージでしかなかった。
うぅ、気持ちいい。

「この分なら大丈夫そうね」
「うう、なんか皆さん心配性ですよ」
「だって貴方に倒れられたら困るもの」
「?」
「ディーヴァのストッパーは、貴方にしか出来ないわ」
「はぁ」

ディーヴァくんのストッパーかぁ。

「もちろん、それだけではなくてよ。貴方はアドリビトムにとって必要な存在なんだから」
「………あ、ありがとう、ございます。………でも、でもその、わたし、まだ何もしてませんが」
「あら」

すっとわたしの頭から手を離したリフィル先生はくすくすと笑う。
わ、何かな。

「何かしているという意識があったら、単なる確信犯よ」
「な、なるほど」

説得力がある。と頷くと、リフィル先生はぽむぽむとわたしの頭を軽く叩いた。

「じゃあ、貴方に私から1つ依頼を出すわ」
「へ?」
「彼のこと、宜しくね」

彼、とはわたしの手を離さない青年のこと。
わかりました、と頷けば、リフィル先生は医務室から出て行った。
何をすれば良いんだろう。
悩むこと数分、とりあえず繋いだ手から彼に温もりがちゃあんと伝われば良いな、と望むだけだった。



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