どうしてこうなった、



あぁ、数学にも手を付けなければ。
でもまだ英語が終わっていない。
受験シーズンなんてすぐに来てしまうんだ。
だからやらなきゃ。頑張らなきゃ。

「──────さん、」

あぁ、そうだよ、寝てる場合じゃない!

「おはよう、」

うん起こしてくれてありが…………あれ?
ぱちぱちと目を瞬く。
その先に居たのは、銀髪の少年。
じぃ、とわたしを見てくる。
そうして、彼はにこ、と笑った。

「おはよう、お母さん」

…………はい?!




  □■□




「え、と。つまり彼、えぇと、ディーヴァくんは記憶喪失なんですね?」
「うん、そうみたい。でも、貴方のことだけはずっと『お母さん』って呼んでるんだけど」
「わたしは誰かを産んだ覚えはないんですが………」
「だよね。依都はどう見ても10代だし」

ピンク色の髪の少女───カノンノさんがうんうん、と悩みながら頭を上下に揺すった。
あの後、銀髪の少年───ディーヴァくんに「お母さん」と呼ばれたことに驚いて何も出来ないでいたわたしを助けてくれた救世主でもあるカノンノさん。うん、足を向けては眠れない。
部屋に入ってきて早々にわたしの体調を気遣ってくれたあたり、イイ人なんだと思う。
そうして、お互いの自己紹介とディーヴァくんについて聞いたのが先ほどで、なんとディーヴァくんは記憶喪失らしい。
そんな中、わたしのことをしきりに「お母さん」と呼ぶから、カノンノさん達にとってわたしはディーヴァくんについて知る切欠になるはずの人物だったみたい。
だけれどわたしには銀髪さんと知り合う切欠などさらさらなく、さらに言うには、その、ピンク色の髪の毛が自前だと言う人にも初めて出会ったわけで、えぇと、つまり、

「あの、ここは、どこなんですか?」
「ここ、って?」
「え、」
「あぁ、この船はバンエルティア号って言って───」
「船?!」

思わず声を上げてしまった。
きょと、と目を丸くして固まるカノンノさんが目に入ったけれど気にしていられない。
船、船って!

「わたしは自分の部屋で勉強してたはずなのにっ!」
「え?」
「そんな、なんで船なんかに、」

わからない、わからない。
なんでわたし、『ここ』に居るの?
じわりと涙腺が緩んで涙が滲む。
慌てて涙を拭おうとしたら、その手を誰かに取られた。
指は細いけれど、わたしより大きくてしっかりした手───ディーヴァくんだ。

「お母さん、」
「ちが、わたしは、君の『お母さん』なんかじゃ、」
「それでも、お母さんが『お母さん』。ねぇ、あのね、」

泣かないで。
なんて優しい声で呟かれる。
そうして目を見開いた。はらはらと零れる雫に気付いたからだ。
でもそれは自分の目からじゃなく───、

「お母さんが泣くと、『ここ』がちくちくするよ」

目の前のディーヴァくんが泣いていた。
あまりの展開に涙が引っ込む。あれ、なんで君が泣いているんだ。あぁ、わたしが泣いてると君の『ここ』が痛いんだっけ………?
ええと、『そこ』は、『それ』は、

「そういう時は、『心』が『痛い』って言うんですよ」
「こころ、いたい………?」

それはなんだ、とでも言いたげな彼の表情に困る。
な、なんて説明したら良いのかな。

「………ねぇ、依都」
「あ、はいなんですか、カノンノさん」
「依都の詳しい事情も、ディーヴァとの詳しい関係もわからないけれど、この船に居たらいいよ」
「え、え?」
「だって、『お母さん』じゃないって否定する割には、依都ってば立派な『お母さん』じゃない」
「はい?」
「つまり僕の新しい子分と言うわけですね!」

しゅ、というスライドした音の後に響いた声に目を丸くする。
え、え? 子分?

「僕はバンエルティア号の船長、チャットといいます」
「あ、依都です」
「ようこそ、依都さん。これで貴方も立派な海賊見習いですよ!」
「え、」

なにそれどういう意味、と、呟く間もなく、そう、何1つ理解しきれないまま、わたしはこのバンエルティア号なる船に身を寄せることになったのだった。



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