進むこと



「お母さんも重要任務に連れて行く」と言って聞かないディーヴァくんに折れたのはリフィル先生だった。
だって、「無理なら俺行かない」とか言い出しちゃうし。
アドリビトムでは一番レベルが高くて仕事が丁寧だから、リフィル先生側としてはディーヴァくんが行ってくれるのが一番有り難いはずなんだけど………まさかのストライキ宣言に、リフィル先生も頭を抱えちゃうわけで。
結果、リフィル先生が折れた。

「無理すんなよ。後、わがまま全部聞いてやんなって」
「はは、肝に銘じておきます、バークライトさん」

ぽんぽんと今回の同行者であるバークライトさんに頭を叩かれ、わたし達はバンエルティア号を降りた。
目指すはアメールの洞窟。




   □■□




ふんふふーん、と鼻歌片手に足取り軽やかに歩いていくディーヴァくんに、わたしもアルベインさんもバークライトさんも苦笑しつつ、その背に続いていく。
わたしがいるだけであんなに浮かれちゃうのはなぁ………。
いや、楽しみにしてくれるのは嬉しいし、有り難いけど、なんて言うか、うぅん。

「お母さん、デコポン来たよっ」
「デカパンだろ!」
「デコポンじゃあみかんになっちゃいますよ、ディーヴァくん」
「? そうなの?」
「えぇ」

ぶんぶんと木の棒、いやこれは槌と言った方が正しいのかな。とにかく、殴られたら確実に痛そうなそれを振り回すデカパンと対峙すると同時に、ディーヴァくんとアルベインさんが剣と斧をそれぞれが構える。
ちなみに今日のディーヴァくんの職業は、念願の魔法剣士である。

「虎牙破斬ッ」
「襲爪雷斬!」
「震天っ」

上からディーヴァくん、アルベインさん、バークライトさん。
わたしは一番デカパンからの距離を取って、回復術の詠唱を唱える。
あの槌で殴られると体力を大幅に奪われるのと同時に気絶させられる時があるので、ティアに教わったそれを口にした。

「メディテーション!」

気合いが入ったのは言うまでもない。
えへへへへ。
やっと使えたよ、ティア!
………まぁ、使えたってことはその分わたし以外の人が怪我したってことなんだけどね。

「終わったー」
「うん、お疲れ」
「ディーヴァくん、アルベインさん、回復要りますか?」
「いや、大丈夫だよ。ありがとう、依都」

首を傾げて爽やかな笑みを浮かべるアルベインさんにわたしも笑みを返して、それからバークライトさんを見る。
そして道具袋からオレンジグミを取り出して彼に差し出した。
オレンジグミを渡されたバークライトさんは意味がわからないと言うように目を瞬かせる。
いや、だから!

「チェスター、TP使い過ぎ。少しは控えて」

ぷりぷりと怒るディーヴァくんに、バークライトさんは、あぁ、と小さく頷きを返してもぐりとオレンジグミを口に含んだ。
もぐもぐと咀嚼するバークライトさんを後目に、アルベインさんが少しだけ深いため息を吐く。
………?

「アルベインさん?」
「ん、あぁ、いや、ラルヴァを作ったジャニス・カーンって、どんな人かなって思ってね」
「………そう、ですねぇ」

アメールの洞窟というダンジョンに研究室を持っている時点で、ラルヴァを作ることに関して何か隠したいことがあるのは明らかだ。
そしてなにより、わたしにとってはディーヴァくんが怖がるものを作った人、という印象しかない。
ううーん。

「悪い人じゃないと、思う」
「ディーヴァ?」
「ラルヴァは怖いけど、そのジャニスは、みんなのためを思って作ったのかもしれない。なら、『悪い』人じゃないよ」

そうだよね、お母さん。
そう聞いてきたディーヴァくんにこくりと頷く。
わたしもそう思う。
マナに代わるエネルギーを生み出したのにはわけがあるはずだし、それを悪意のもと利用しようとしていたのなら、大々的にデモンストレーションなんかしないだろうし。
だから、ディーヴァくんの言うとおり、一概に悪い人だとは言えないと思う。

「ま、悪い奴じゃなくとも、こんな人から隠れた場所に研究室を持っている以上、変人だろうけどな」
「チェスター」
「まぁ、その答えもこの先にあるのでは?」

アメールの洞窟の西最奥を指差す。
誰もがこくりと頷いた。
今回は、ラルヴァの生成方法を探れ、というクエストだから、本人に会うかどうかはわからないけれど、とにかく進まなければならない。

「行こう」

ディーヴァくんの言葉に、各々の武器を握りしめることで皆応えたのだった。



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