休養の日



わたしが寝ていた間、リフィル先生と大佐さんが看てくれたらしいんだけど、身体に異常はどこにも見つからなかったという報告を受けた。
自分でも倒れた理由がわからない以上、そうですか、としか返しようがなくて、そんな反応をしたわたしの頭をリフィル先生が撫でてくれた。
そして目が覚めた日はアニーミさんとアニスちゃんが言った誤解を解くために奔走し、明くる日の今日は、まだ大事をとってバンエルティア号で留守番中。
そんなわたしのお目付役は、白い修道士姿が眩しい金髪美人なミントさんだった。

「依都さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫、です」

定期的に声を掛けてくれるミントさんにこくこくと頷く。
美人さんに声を掛けられ、心配までしてもらってタイヘン動悸は激しいですが、わたしは至って健康です!
………って変態か、わたしは。
パニールさんが淹れてくれたホットココアに口付けながら、わたしはほぅ、と長いため息を吐いた。
甘くて美味しいそれは心身共に暖めていく。
わたし、虚弱体質じゃあないのになぁ。
おやつのバームクーヘンに手を伸ばしてもぐもぐとしていると、食堂の扉が開いた。

「よぉ、依都。起きてて大丈夫か?」
「わたしは虚弱体質じゃないですよ、バークライトさん」
「あ? ははっ、そうか?」

細い目をさらに細くして笑うのはバークライトさんだ。
青い綺麗な長い髪を結ったその人は、珍しく結い上げたわたしの髪を見てぱち、と瞬く。

「バレッタ使ってんか」
「あ、はい。今日は動かないから、壊す心配がないんで」
「自分で買ったのか?」
「………ガイさんが、くれたんです」

ナパージュ村まで行っていたガイさんがお土産としてくれたのが、今、わたしが髪を留めるめるのに使っているバレッタだった。

「なんだ、浮気か?」

にやにやと笑いながら言ったバークライトさんに殺意が芽生えたのは仕方のないことだと思った。




   □■□




拗ねるように口を尖らせてぷりぷり怒れば、バークライトさんは宥めるように頭を撫でてきた。
む、悪いのはバークライトさんなのにっ。
だいたい、浮気って、………『浮気』って、それじゃあ、まるで、

「っ」

ぶんぶんと首を横に振る。
違う違う、落ち着け、わたし。
わたしとクラトスさんとディーヴァくんは、あくまで『偽親子』なんだから!
………いや、それもどうなの。
あああ、あぁもう、とにかくっ。

「バークライトさん、酷いです。わたしちゃんと説明したのに」
「依都さん」

そっとミントさんに肩を抱かれる。
慈愛に満ちたその表情は本当にわたしを心配しているようで、バークライトさんは困ったように苦笑した。
む、むむっ。

「わ、わたしが悪い、ですか?」
「そんなことありませんよ、依都さん」
「悪かったって。そんなにショック受けられるとは思わなかったんだよ」
「バークライトさん………」

別に、からかわれるためにディーヴァくんからの呼称を許したわけじゃない。
なのに、アニーミさんやバークライトさんにとっては、ちょうどいいからかいの対象なのだ。
それが悔しい。
それに、わたし1人の問題なら気にならないけど、こればっかりはクラトスさんも関わる場合があるからなぁ。

「お母さんが、チェスターに苛められてる………?」

しん、と食堂内の空気が静まり、張り詰めた何かがこちらに向いた。
食事の入り口に立っていたのはディーヴァくん。そしてその後ろにアルベインさん。

「チェスター、お母さんのこと、苛めてるの?」
「え、あ、いや、」
「クレス、チェスター借りるよ」
「う、うん?」
「あ、こら、頷くな、クレス!」
「行こっか、チェスター。………お母さん、ちょっと待っててね」
「え、あ、はい?」

にっこりと笑うディーヴァくんはずるずるとバークライトさんを引きずって食堂から出て行ってしまった。
あれ、あぁもう。

「依都、本当に大丈夫かい?」
「大丈夫ですよ、アルベインさん」
「ミント、君は?」
「私も大丈夫ですよ。………クレスさんは、お怪我はありませんか?」
「うん、僕も大丈夫。ただ、」
「もぉー、クタクタっ。ディーヴァってば容赦なさすぎ!」

アルベインさんの言葉を遮り、高い声を響かせながら食堂に入ってきたのはクラインさん。
所謂『魔女』といった感じの彼女の片手には箒が持たれている。
でもクラインさん、『魔女』じゃなくて、『ハーフエルフ』だそうな。
わぁ、なんてファンタジー。
………じゃなくて、

「ディーヴァくんが何か?」
「『レベル低ーい!』とか言い出して、クエスト討伐数終わってもぐるぐるダンジョン回るんだもん。ちょっとは手加減してよねーって感じ」
「………はぁ、」

え、あれ?
でもあの時───クラトスさんも交えてサンゴの森に行った時は、わたしのペースに合わせて緩めてくれたけど………。
それに、2人っきりで行くときは不用意にモンスターと戦わないけど………?

「あの、ディーヴァくんに言えば、たぶんどうにかしてくれますよ」
「そんな仕様依都にだけに決まってんじゃん!」
「え、」
「疲れたって言ったって、グミ投げられて終わるもん。ねーぇ、依都から何か言ってよ」
「………はぁ」

わかりました、と呟けば、たたたっと軽やかな足音が響く。

「お母さん、明日、重要任務しよー」

ボッコボコに叩きのめされたバークライトさんを背後に従えたディーヴァくんがにっこにこの笑顔でわたしの明日の予定を埋めてしまった。
………外出許可、降りるかなぁ。



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