気になること



「ゼロスッ!」
「ん? あぁ、どうしたんだ、ディーヴァ」
「お母さん知らない?! 隠してない?! 連れ込んでない?!」
「知らない、隠してない、連れ込んでない! お前は俺を何だと思ってんだよ………」
「だってお母さんが………!!」
「わたしが何か?」
「おがあざん………!!」
「なんで泣いてるんですか、ディーヴァくん」

ちょっとついていけない、と言えばゼロスさんが肩を震わせて笑った。




   □■□




お母さんが見当たらなくてびっくりした、と言って涙を拭ったディーヴァくんは、クエストを行う頃にはケロッとした顔でマトックを片手に握っていた。

「赤真珠採れた」
「それは良かったですね」
「ん。これでブローチが造れるよ」
「ブローチ、ですか?」
「ん」

アメールの洞窟は、もう2人で来られるような場所になっていたので、初めてディーヴァくんと2人っきりのクエストだった。
それにしても、ブローチって………?

「赤サンゴと赤真珠で赤いブローチが造れるんだ。お母さんにも造ってあげるね」
「はい、楽しみにしていますね」

にこっと笑ったディーヴァくんにわたしも笑みを返す。
ブローチかぁ。そんなのまで手作り出来るんだね。

「お母さん、帰ろー」
「はい」

ぎゅっと袋の口を絞めたディーヴァくんに言われ、わたしもロッドを握り締めながら返事をした。
ディーヴァくんは笑ってる。昨日の怖がりっぷりが嘘みたい。
大佐さんはあの『怖がり』について何か意味があるように考えていたけれど、そこまで深く考えなくても良い気がする。
だって、誰だって怖いものは怖い。怖くないものは怖くない。
ただ、それだけ。

「お母さん?」
「何でもありませんよ」

いいこいいこと背伸びしてその頭を撫でれば、ディーヴァくんは満足そうに笑った。
それからディーヴァくんに手を引かれたままバンエルティア号に戻ると、ホールが何やら騒がしかった。

「………? ミルダさん? どうかしましたか?」
「あぁ、依都。新聞を買ってきたんだけど、この記事、ナディの活動が活発になってきてるみたいだ」
「ナディって確か、大佐さん達を襲ったという………?」
「えぇ、そうですよ」

ミルダさんが持っている新聞を、ディーヴァくんと一緒になって覗き込む。
………うん、読めない。

「お母さん、わかる?」
「いえ、全く」
「じゃあ、読み上げるか。『マナこそ世界の真の礎。我等人類は文明を後退させ、マナの恵みと調和すべし』か………」
「????」

ガイさんが読み上げてくれたけれど、わからないものはわからない。
ぱちぱちと目を瞬いて首を傾げる。
えっと………?

「これがナディの主張か。こんな事を先進国で叫んでいるのか? やれやれ、慎みのない連中だ」
「自分に酔っているのでしょう。相手が大きければ大きいほど、己の大きさを勘違いしてしまうものですし、先日のデモで、マナ離れがさらに進んでしまうでしょうし。ナディも今が頑張り時ですよ」

整理が終わる前に話が進んでしまい、ディーヴァくんと2人でオロオロとしていた。
けれど、大佐さんの口から昨日のデモの話が出た途端、ディーヴァくんがびくりと肩を揺らす。
でもそれも一瞬だけで、その後はわたしの手を強く握り締めて我慢していた。
それよりもわたしが気になったのは、『マナ離れ』という単語。
何故だろう、ざわざわする。
そう、気持ちが悪いぐらいに、胸騒ぎがする。
それではいけない、そうなってはいけない。
なんの確信もないのに、そう思う。
『マナ離れ』は、現実に起こってはならない───………。

「依都!」
「っ、」
「顔色が悪いですね、クエストで何かありましたか? それとも今の話に、貴方が心を折るようなことでも?」

わたしの名を呼んだのはミルダさんで、その後、背の高い大佐さんに顔を覗き込まれ、ゆっくりと視線を上げて視線を合わせた。
きゅ、と眉が寄せられる。
そんなに酷い顔色なのかな。
口を開こうとして、震えていることに気が付いた。

「依都、本当にどうしたんだい?」
「ぁ、」
「お母さんっ」

がくん、と膝が折れる。
慌ててわたしを支えたのはディーヴァくんで、わたしもディーヴァくんに縋るように手を伸ばした。
その手がディーヴァくんに触れる前に、視界がブレる。
また泣かせてしまう、と思いつつも、わたしの意識は遥か遠くへと旅立ってしまった。



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