お泊まりします!



「山、1つ、」
「えぇ。ラルヴァのデモンストレーションで、ね」

そりゃあディーヴァくんが怖がるわけだ。
わたしだって実際にそんなのを目の当たりにしたら怖くて仕方ないだろう。
お風呂が終わってからリフィル先生を訪れれば、温かい紅茶を飲みながら答えてくれた。
山1つ吹き飛ばす威力を持ったラルヴァ、かぁ。

「怖いですね」
「えぇ。そしてさらにこのラルヴァが軍事転用されたら」
「軍事───えぇと、戦争の道具として使われたらってことですよね?」
「そうよ」

理解が早くて助かるわ、と言われ、噛み砕いて教えてくれてるのはリフィル先生なのに、と思う。
きゅ、と唇を噛むと、後ろからすっと手が伸びてきてぽんぽんとわたしの頭を叩いた。
顔を上げれば、そこに居たのは大佐さんだった。

「貴方が気に病むことはありません。まだラルヴァの全容が解明されたわけではありませんし、我々も研究途中ですしね」
「………はい」
「ただ、ディーヴァがあんなに取り乱したのは驚きましたが」
「あぁ、アレですか?」

デモの検視から帰ってきたディーヴァくんの取り乱しっぷりは確かに凄かった。
わたしに引っ付いてたし………。
なんとか慰めてあげることはできたけど、

「剣を扱うことも、モンスターを傷付けることも、戦うこともなんの厭いも恐怖も感じないディーヴァが、貴方が怪我をした時とラルヴァを見た時だけはあれだけ取り出す。───何か関係があると思いませんか?」
「関係、って」
「ディーヴァが貴方を『母』であるように、ディーヴァにとってラルヴァが『何か』であること、ですよ」
「???」

え、意味がわかんない。
ついと細められた赤い瞳をじぃっと見返しても、大佐さんは何も言わない。
え、えと、だから。うん?

「………え?」
「依都、どうかして?」
「………や、その。大佐さんが何を言いたいのか結局全くわからなかっただけなんです、」
「おや、難しかったですか?」
「すみません」
「要はディーヴァにとってラルヴァは、その存在そのものが『恐怖』なんですよ。なんの理由もなくても、ね。貴方が『母』である理由がそうであるように」

つまりそれって、ラルヴァの威力がどうであれ、ラルヴァはディーヴァくんにとって『恐怖』でしかない、ということ、かな。

「そしてそれが彼の無くした記憶に関係するのかもしれない。───あくまで想像の範囲ですが」

無くした記憶、かぁ。
難しいな、と呟けば、アドリビトムのブレーン2人はそっと笑うのだった。




   □■□




夜の海は暗い。
この世界に来る前は、そうそう夜中に家を出る機会なんてなかったから、こうやって夜の海を見る機会もなかった。
科学室を出て、何故かそのまま眠る気がしなかったので甲板に出てみたけれど、何があるわけじゃない。

「あ、依都」
「アニスちゃん?」
「ちょっとぉ、捜したじゃんか」
「え、わたしに何か?」

背中にぬいぐるみを背負ったアニスちゃんがぷくりと頬を膨らませて縁に腕を乗せて身体を預けていたわたしの隣に立った。
………? 何か、約束してたっけ?

「ってか、ここじゃ身体冷やすよ。部屋行こ、部屋」
「はぁ、」
「うっわ、もう手、冷えてるじゃん。仕方ないなぁ、アニスちゃん特製のハーブティも淹れてあげる」

がしっと手を掴まれ、引かれるままに歩く。
着いたのはアニスちゃんとティアが使ってるゲストルームだった。

「ティア、依都見付かったよ」
「そう、良かった」
「ティア………? あれ、わたし、何か約束してた?」

覚えがないんだけどごめん、と早口で謝れば、ティアはふるふると首を横に振った。
え、あ、良かった。約束を忘れたわけじゃないんだ。
安堵のため息を吐けば、アニスちゃんがケトルを取ってくる、とまた部屋を出て行ってしまった。
それから、ティアにベッドをぽすぽすと叩かれる。
傍によってベッドの縁に座れば、ティアがわたしの両手を掴んできた。

「ティア?」
「何か、悩んでることでもあるの?」
「え、」

言われ、ぱちりと目を瞬く。
悩み………?

「夕食時、元気が無いように見えたから」
「あぁ、あれは、えと、解決した、のかなぁ?」
「曖昧ね」
「わたしの問題じゃないから」

夕食時にわたしが元気が無いように見えたとしたら、たぶんディーヴァくんのことだ。
ディーヴァくんは散々「ラルヴァ怖い」と言ったけれど、ラルヴァの何が怖いかを言わなかったから、そこが気になっただけ。
それならさっき、リフィル先生が解決してくれた。
………まぁ、大佐さんが新たな仮説までもを教えてくれたから頭の中ぐっちゃぐちゃになっちゃったけど。

「心配掛けてごめんね。後、心配してくれてありがとう」
「元気が出たなら、いいわ」

ふわり、と花が開くような鮮やかな笑みを浮かべたティアに顔を赤くする。
び、美人さんに近くで微笑まれたら恥ずかしいっ。照れる………!!
かかかっと頬を赤くしているわたしを見て首を傾げたティア。そんなところにアニスちゃんが帰ってきて、

「何してんの?」

と、冷静な一言が浴びせられる。
ほんの少し冷静さを取り戻したわたしは少しため息を吐いて、

「ティアみたいな美少女に間近で微笑まれたら誰だって赤面するよ」
「大佐はしないよ?」
「じゃあ、大佐さんはわたしの敵」

むすりとふてくされてそう言えば、ティアはさらにくすくすと笑った。
わぁ、なんで笑うのっ。わたし、変なこと言ってないよ。

「はい、依都。アニスちゃん特製ハーブティ」
「ありがとう、頂きます」

すぅっと香りをかげば、ハーブの匂いがふわりと薫った。
ふわわわ、美味しそう。
そっと口を付けて1口飲むと、さらにハーブの匂いが強まった。

「美味しい」
「でっしょー。それ飲んで身体あっためたら寝ようよ、依都」
「そうだね、明日に響くもんね」
「………うわぁ、今のお誘いスルー?」
「ふぇ?」

お誘い?
目を瞬いて首を傾げる。
危うくティーカップも傾けそうになったので、慌ててティアがわたしに手を伸ばした。

「危ないわ」
「あ、ごめん、」
「冷めないうちに飲んじゃいなよ」
「うん」
「んで、ここで寝ちゃいなよ」
「………うん?」
「部屋戻る前にまた身体冷やしちゃうよ」

ほら早く、とアニスちゃんに促されて、中身を飲み干す。
空になったティーカップをティアに奪われ、そしてそのティーカップはアニスちゃんに渡された。
え、え、あ、おと、『お泊まり』………?

「え、えへ」
「依都? どうかしたの?」
「ちょっとなんだか嬉しい」
「ふふ」

ティアに頭を撫でられる。
え、あ、こら、わたしの方が年上なのにっ。

「依都にトクナガ貸してあげる」
「え、あ、ありがとう?」
「さ、寝ましょう」

女の子2人で寝るには充分にベッドは広い。
ティアが使っているベッドにティアとアニスちゃんから渡されたトクナガというぬいぐるみとわたしで寝そべる。
まさかバンエルティア号の中でお泊まり体験をするなんて………。

「ティア、アニスちゃん」
「なあに」
「どしたの、依都」
「元気出た。ありがとう」

トクナガをぎゅうっと抱き締めて目を閉じた。
そのトクナガがアニスちゃんの『武器』だと知るのは後日のことだった。



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