慰めよう



クエスト終了の報告を機関室でチャット船長にしていたら、ホールからディーヴァくんが駆け下りてきた。
そしてその勢いのままにわたしの背に飛び付く。
うわぁ、と間抜けな声を漏らすと、すりすりとディーヴァくんがわたしの背にすりよった。

「ディーヴァくん!」
「………ただいま、お母さん」
「………? ディーヴァくん? どうしました?」
「………ラルヴァ、怖い」
「え、『怖い』?」

きゅうぅ、と痛いぐらいに抱き付いてくる。
うぐぅ、と唸り声を上げると、チャット船長が慌てたようにディーヴァくんの名前を呼んだ。

「ディーヴァさん、依都さんを離して下さい!!」
「え、やだ」
「だったらもう少し腕の力を緩めてあげて下さい」
「………ん、」

ふっ、と腕から力が抜ける。
助かった、と思ってチャット船長に笑みを向ければ、チャット船長は呆れたようにため息を吐いた。

「じゃあ、こちらが報酬です。2人とも、お疲れ様でした」
「はい」
「ん」

報酬を受け取った後でも、ディーヴァくんはきゅうぅ、とわたしに抱き付いたままだった。




   □■□




「………何をやっているんだ」
「あ、クラトスさん」
「お父さん………」

引っ付き虫よろしくわたしに抱きついたままのディーヴァくんを見付け、クラトスさんが深い深いため息を吐いた。
だろうね、うん。わたしも深いため息を吐きたい。
30センチ近く身長が違うのにぴったりとわたしにくっ付いたままのディーヴァくんは本当にちょっとどうにかしてほしい。
ようしょ、とわたしが1歩踏み出せば、ディーヴァくんもちょちょちょ、と小さな歩幅で踏み出した。
………歩きにくい。

「ディーヴァ」
「わぁ、なにするの、お父さん!」
「あぁ、ありがとうございます、クラトスさん」

ディーヴァくんの首根っこをずんむと掴んだクラトスさんがわたしからディーヴァくんを離してくれた。
あぁ、助かった。

「それでディーヴァくん、何があったんです?」

ラルヴァ怖い、と言って押し黙ってしまったのはディーヴァくんで、それ以上何も言ってこない。
あぁ、もう。

「大丈夫。もう大丈夫ですよ」
「本当?」
「えぇ、もちろん。だってここにはわたしもクラトスさんも居るでしょう?」
「おかあさん、」

ほろほろと涙を零すディーヴァくんに手を伸ばす。
それから、袖の裾を引っ張って、更に背伸びしてちょいちょいと頬を叩いた。
それでもほろほろっ、涙は流れに流れて彼の顔をべしゃべしゃに濡らしていく。
あぁもう、どうしよう。

「おがあざん」
「なんか濁音ばかりですよ」
「お母さんお母さん、怖いよ、怖い。ラルヴァ怖い」
「はい」

微笑んで、彼の腰にきゅうと抱き付いた。
大丈夫大丈夫。ここは怖くない。ここなら怖くない。
だってここにはラルヴァはない。
ディーヴァくんを怖がらせるものは何一つないよ。そうわかってもらうために、きゅうと、きゅうと抱き付く。
届く場所まで背を手で撫でる。

「大丈夫ですよ、ディーヴァくん。もう大丈夫」
「うぐ、」
「だから泣かないで下さい。………ね?」

少し身体を離してディーヴァくんを見上げれば、彼はほろりと最後の雫を零した。

「怖くない?」
「えぇ、もう、大丈夫ですよ」
「………うん」

ふ、と身体から力を抜いたディーヴァくんはそのままわたしに凭れてくる。
え!
体格が違うのだから、当然、わたしじゃあディーヴァくんを支えられるはずもなく、倒れそうになった。
そんなわたしの背に手を添えて支えたクラトスさんがまたディーヴァくんの首根っこを掴まれて引き剥がす。
ディーヴァくんの背に回していたわたしの腕が行き場を無くして宙に放り出されたけれど、まぁこればっかりは仕方ない。
ディーヴァくんは何が起こったのかわかっておらず、ぱちぱちと目を瞬いて首を傾げている。
それから、ぱぁっと表情を明るくして、

「お父さん!」
「なん………───」
「えへへっ。俺、夕飯行って来ます!」

クラトスさんにぎゅっと抱き付いた後、ディーヴァくんは『恐怖』が薄れたのか食堂を目指して走っていった。
残されたわたしとクラトスさんはお互いの顔を見合わせて、少しため息。

「忙しい奴だ」
「それだけ人生を謳歌してるんだから良しとしませんか?」
「………そうだな」

フ、と静かに息を吐くように笑ったクラトスさんに、わたしも小さな笑みを返した。



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