4色のパイは如何?


どうやら船の改装を行うらしい。
わたしがそれを知ったのは、カイウスさんが食糧庫の片付けをして大量のリンゴを食堂に持ってきたときだった。

「あらあらまぁ、大量ですねぇ。どう捌きましょうか」
「サラダにもデザートにも使えますから、そんなに大変じゃないと思いますけど………。でもちょっと多いですよね?」

段ボール6箱分のリンゴなんて、ちょっと調理するの大変かも。

「でも腐らせるよりはやっぱり調理した方が良いよな?」
「それは勿論です。………頑張りましょうか、パニールさん」
「えぇ。腕の見せ所ですね」

ふふふ、と笑うパニールさんにわたしも笑みを返すと、どさっと食堂にさらに段ボールが運ばれてきた。運んできたのはハーシェルさんだ。
………え?

「レモンとパインとオレンジも段ボール3箱分あるぜ」
「えぇ、」

食糧庫管理どうなってるんですか、チャット船長!




   □■□




「キールさん、セイジくん、チャット船長、休憩にしませんか?」

機関室に降りて、船に散りばめられては書かれている文字を解読しているキールさん達に声を掛ける。
キールさんと一緒になって座り込んで文字を読んでいるのはセイジくんで、なんとあのリフィル先生の弟さんなんだって!
だから現役学生であるキールさんと力を合わせて古代文字を解読してるんだ。
………いいなぁ、頭が良いのって。

「休憩?」
「休憩しつつ食糧庫の整理を手伝って頂けると有り難いんですが」
「は?」
「アップルパイ、レモンパイ、パイナップルパイ、オレンジパイと4つのパイから好きなの選んでお茶請けにして下さい」
「何なんです、そのレパートリーは」
「だってチャット船長、食糧庫の整理のためには食材使わないと」

段ボール詰めされた果物をどうしようか悩みに悩んで、休憩のお茶請けに使うことにしたのだ。
後夕飯がパイン入りの酢豚とリンゴの千切りを混ぜたサラダにすることも決めたので、とりあえず作業中の人達に時間をずらして休憩に誘うようにし、今に至る。
ふぅ、と深めなため息を吐いたキールさんはそのまま立ち上がると、その視線をセイジくんにずらした。
セイジくんはぱっと顔を明るくしてこくんと頷き、わたしに近付いてくる。

「依都も行くんでしょ?」
「えぇ、戻りますよ。………チャット船長の分はこっちに持って来た方が良いですか?」
「アップルパイでお願いします」

嬉々として響いたチャット船長の声に笑みを零しつつ、2人を伴って食堂に戻る。
すると、食糧庫片付け組にプレセアさんを混ぜた3人が先に休憩を取っていた。
あれ、わたしが声掛けたのキールさん達が初めてなんだけどなぁ。

「匂いにつられて来たんですよ」
「あぁ、なるほど」

ぱちぱちと目を瞬いて固まったわたしに、パニールさんがそう答えてくれた。
………聞いてないのに答えてもらえるとは、そんなに顔に出てたのかな。

「なぁ、依都が作ったんだってな!」
「いえいえ、わたしは煮詰めただけですよ。それより、パニールさんは凄いんですから! パイ生地から作っちゃうなんて憧れちゃいました。今度、作り方教えて下さいね?」

ハーシェルさんはきらきらしい笑みを浮かべてこっちに聞いてきたので、思ったことを素直に口にする。
冷凍パイ生地という便利なものがある現代ッ子からすれば、一から生地を作るなんて体験しないし、見ることもほとんどない。
それを目の前で見られたのはちょっと役得ていうかごにょごにょ。

「中身もウメーぞ?」
「………ありがとうございます」

もぐもぐと、パイのかすを口の周りに付けながら豪快に食べていくハーシェルさんに照れながら応える。
ううう嬉しいような、恥ずかしいような。

「御馳走様でした」

周りが騒がしくても変わらないテンポで食べていたプレセアさんが、お皿にフォークを置いてから両手を揃えた。
キッチンにまで空のお皿を持っていった後、わたしの傍まで来てじいっとわたしを見上げる。

「とても美味しかったです。ありがとうございました」

何かの事情があって感情を出しにくくなったらしいプレセアさんが、小さく、ほんの小さく微笑った。

「どどどう致しまして?! ああ、ああありがとうございます!!」
「何でお前が動揺してるんだ」

レモンパイをつっつくキールさんに冷静に突っ込まれ、わたしは恥ずかしさから顔を赤くして押し黙るのだった。



- 17 -

[] |main| []
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -