気が遠くなりそうな、距離



第一印象は震える手で杖を掴む臆病な子。
第二印象はルークを庇ってくれた果敢な子。
第三印象は俺に許しをくれた優しい子。
そして最後は、

(触れてみたい、子)









(って、変態か俺はっ!!!)

旦那からの任務でナパージュ村を目指している今、彼女───依都から離れて彼女のことを想い、最終的に至った感情がそれだった。
あまりの願望を混ぜ込んだ感情に、深い深いため息を吐く。
───触れたい、だなんて。
アニスがバラさなければ、上手くやれば『女性恐怖症』の一件は彼女に知られずに済んだのに。

「それなら、ガイさんに近付かない方がいいですよね」

俺が女性恐怖症だと知って呟いた依都の一言は、俺の心を抉るものだった。
確かに女性恐怖症で女性には触れられないが、だからと言って「女嫌い」ではない。
だから避けられるのが辛かった。確かにそれもある。
だけどそれ以上に、

(彼女に、『依都』に避けられるのが辛い、だなんて)

そしてその一言で自覚した俺もどうかしている。
『償い』という名を借りて彼女の傍にいた頃からその兆候はあったはずなのに。

「はぁ、」

狙ったように船から降りるはめになった任務が、今回ばかりは恨めしい。
無理矢理吐いたため息にそっと自嘲して、勢いをつけて立ち上がる。
宿の部屋を出ると、聞き込みに行っていたティアを会った。

「あら、今から?」
「あぁ。………露天、出てたよな?」
「えぇ、出ていたわ。………依都に?」
「ははっ。何でもお見通しって?」

と、わざとおどけて言えば、ティアに深いため息を吐かれた。

「あれだけ傍に居ようとしてたんだもの、気付かない方がおかしいわ。───尤も、彼女は気付いてないみたいだったけど」
「あぁ、そうだな」
「………頑張って」
「ありがとう」

言ってからはたと気付く。
頑張って───何に?
依都にこの想いが届くように?
それとも───、

(まさか、な)

彼女に触れられるよう女性恐怖症を治すことを?
………いや、いくらなんでもそこまでバレてない、はず。
そこは少し自信がない。
ティアから逃げるように宿を出る。
空は赤く染まっていて、陽がそろそろ落ちる頃だった。
店仕舞いを始めていた露天もあったので、そちらに急いで足を向ける。

「いらっしゃい」

目に付いた露天は、髪飾りを売っているものだった。
カンザシと言われるものからコームまで様々あったが、その中でも俺の目を引いたのは───。

「これを」
「贈り物で?」
「ああ。包装を頼む」

花が散りばめられたバレッタを手に取る。
彼女は髪が長いから、きっとこれなら普段から活用するだろう。
俺はまだ、触れられないから。

「遠いなあ、」

思わず呟けば、包装したバレッタを差し出しながら露天商が口を開く。

「お兄さん、どこに行くんだい?」
「ん、あぁ、ナパージュ村さ」
「ナパージュ村なら目と鼻の先じゃあないか! それとも何か? 遠いのは恋の話か?」
「───恋、だよ」

あぁ、そうさ恋の話さ!
だからこそ気が遠くなりそうなんだ。
俺は自分の症状が治るのを待っていられない気がする。
俺が彼女に触れられない分、コレが彼女の傍にありますように。
そう願って、俺はバレッタを懐にしまった。
次に会うとき、少しでも君との距離が縮まればいい。
だってこれは、『恋』だから。








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title by 確かに恋だった

ガイさんの自覚とあれこれ。



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