なんてこったい



「えぇと、リンゴ、オレンジ、キュアボトルに小麦と塩、それから唐辛子、」
「グミの元にナイフを3つ、バターとナスがそれぞれ5つずつ、これで全部だな」
「お付き合いありがとうございます、ガイさん」

今日は久々に街に船が停められたのだけれど、ギルドの人数が増えた分、パニールさんは食堂から離れられなくもなってきた。
そのため、パニールさんのお使いを、わたしとガイさんでしている。
最初はわたし1人で来るつもりだったんだけど、ガイさんが「荷物持ちが必要だろう?」と、有無を言わせない笑顔で言ってきたので2人で来ることになった。
その証拠に、わたしは唐辛子とオレンジ、塩しか持たせてもらえてない。

「あの、ガイさん。わたし、もう少し持てますよ?」
「………あのな、依都。少しは男手を頼ってくれないか?」
「あ、すみません………」
「それに、俺は君に重たいものを持たせないためについてきたんだ。今更渡せないだろ?」
「う゛、」

ああ、どうしてこう恥ずかしい台詞をぽんぽん口にするかな、ガイさんはっ!
じわじわと赤くなる頬を叱咤しながらバンエルティア号に戻れば、甲板で海を眺めていたカノンノさんがわたしを見て一言、

「依都、結婚してた?」

はい?




   □■□




「つまり、」
「ナパージュ村の後続隊の1人をディーヴァが『お父さん』と呼んでいる、と」
「そうなの」

あまりの事態に頭痛がするわたしの代わりに言葉を告げたのはガイさんで、頷いたのは言わずもがな、カノンノさんだ。
え、え?

「あの、カノンノさん。ディーヴァくんはどこに、」
「ホールにいると思うけど、」
「うぅ、」

今後を考えると胃が痛い。
よいしょ、と荷物を抱え直すと、ひょいと隣から腕が伸びてさらわれた。

「カノンノさん」
「パニール宛でしょ? 私が持って行くよ」
「でも、」
「依都、まず状況を把握することが大事だぞ?」
「う。じゃあ、お願いします、カノンノさん」
「うん!」

にっこりと笑うカノンノさんやガイさんに見送られてホールへ行く。
こつ、と靴の音が響くと見ず知らずの男性の周りをうろうろしてたディーヴァくんがわたしの姿を見付けてこっちへ走ってきた。

「お母さん、お父さん来たよ!」

うん、どちら様?
とすぐ聞けずに曖昧に笑う。
すると、あちらからこちらに近寄ってきた。
鳶色の髪と瞳を持つ男の人───いやお父さんだから男の人じゃないととても困る。

「あ、の、」
「………クラトス・アウリオンだ。傭兵をしている」
「傭、兵、ですか………?」

傭兵ってなんだ。とは言わない。大丈夫、わたし空気読める、ってこれ前にもやったような気がする。
ふ、と薄く笑ったアウリオンさんは、その視線をわたしの隣にいたディーヴァくんに向けた。
その眼差しは、どこか優しい。

「あ、えと、申し遅れました。依都です」

ぺこりと頭を下げる。
例え今がどんな状況でも礼儀は大事………!
ゆっくりと頭を上げて、ディーヴァくんよりちょっと高いアウリオンさんの顔を見る。
はた、と視線が交わったけれど、二の句は継げられなかった。
だって、だって、何を言えばいいのかわからない………!

「貴方達、何お見合いしているの?」
「っ、リフィル先生」
「黙っていても何も進まないでしょう? ………ねぇ、ディーヴァ。どうして依都とクラトスが『お母さん』で『お父さん』なの?」

単刀直入にリフィル先生がディーヴァくんに聞く。
ディーヴァくんはぱちぱちと目を瞬かせて、首を傾げた。

「お母さんが『お母さん』、お父さんが『お父さん』じゃ駄目?」
「駄目と言うよりは、」

誤解を招きかねないから、と言うのが大きな理由。
でも正直、今更ディーヴァくんに「依都」と呼ばれても反応出来ない気がする。
押し黙ってしまったら、じい、とディーヴァくんが無言でわたし達を見つめてきた。
うっ、そんな目で見つめられたら………!!

「わ、わたしは構いませんが、」
「………私も構わん」
「貴方達、流されていてよ」

その自覚はあります………!!
でも、

「べ、別にわたしとアウリオンさんが夫婦になるわけじゃなく、あくまで呼称ですし、」
「ふうふ、」
「ディーヴァくんが呼びたいようで、構いませんよ」
「───駄目っ!」
「え、」

ぐっとディーヴァくんに腕を掴まれてその背に隠される。
きょと、と目を丸くしていると、ビシッとディーヴァくんがアウリオンさんを指差した。

「いくらお父さんでもお母さんはあげないからね………!!」

いや、要らないでしょうよ、と心の中でディーヴァくんに突っ込む。
この日のことを後悔するならば、アニーミさんに「偽親子」と3人ワンセットで呼ばれることだけなのは、今のわたしには知り得ないことだった。



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