なんか色々恥ずかしい



「アンタがディーヴァの母親?」
「いや、あれはあくまで呼称なんですけど、」

じっとわたしを見つめる黒の双眸に、きゅっと口を閉じた。




   □■□




「アニース、彼女を苛めてはいけませんよ? ルークを助けてくれた恩人なんですから」
「はぅわ、そうなんですか?」
「いや、あれはなんか流れでつい」

黒髪のツインテール少女の後ろからやってきた大佐さんの言葉を聞いて、ツインテール少女はきらっきらしい笑みを浮かべる。
あ、あれ? さっきと表情が違う?

「今ちょっと間違がった気がしてるんです」
「おや」
「大佐さん、ガイさんをどうにかして下さい」
「言ったでしょう、好きにやらせておきなさいと」
「でも、慣れないんですもん。それに、ガイさんもやめそうにないし、」

腕の傷はほぼ治っているから、もう何もしてもらわなくて大丈夫なのに、まだ『償い』としてわたしの世話焼くんだもん。
ちょっと、いやかなり、困ってます。
ど、どうにかならないかな、ガイさん。

「ふえ? ガイって女性恐怖症なのに?」
「え゛」
「アニス? そういう余計な一言は言ってはいけませんよ? これからますます面白くなるじゃないですか」
「もう大佐ったら本音出てますよぅ」
「これはこれは、ついうっかり」

あはは、と空笑いする大佐さんの本性を見た気がする。
それにしても、『女性恐怖症』って。

「それなら、ガイさんに近付かない方がいいですよね。女性恐怖症って、………え、あれ? 女性恐怖症なのになんでわたしの世話なんて?」

おかしい。
だって、女性恐怖症って、その性別が女性であれば怖いんじゃないの?
え、それってつまり、わたしは『女性』に見られてないってこと?
そりゃあ、ティアに比べれば発育不良かもしれないけど、いやまさかそんな。
いやでも、ティアみたいな子が近くにいたら、わたしなんか『女の子』じゃないよね、うん。
………う、それはそれで悲しい、かも?
でも、女性恐怖症ならなおさら、今ガイさんがやってること止めないと。
無理されてる方が辛い、よね。

「依都?」
「へ? あ、なんですか、大佐さん」

何か? と首を傾げると、顎で後ろを指し示される。
くるりと振り返るとそこに居たのは、苦笑いをするガイさんだった。

「あ、の」
「俺は確かに女性に触れられない体質だけど、だからって女性が嫌いなわけじゃないし、それに君に対しても無理をしてるつもりはないんだ」
「………はぁ、」
「だけど、嫌ならそう言ってほしい。君が嫌がることをしていたら、償いじゃないしな」
「えと、」
「それにもう、『償い』とかじゃないんだ」

口を挟む間もなく話が進んでいき、1人取り残される感じがしてる。
そしてなにより、背後でにやにやしている気配が2つあるから、そっちの方が気になって仕方ない。

「君に、何かしてあげたい。───俺はそう思って、やっているだけだ」

あ、この人駄目だ、恥ずかしい。
そう思った時には遅く、かぁあっと頬が熱くなる。
どうしよう、どうしよう。
この人のこと、どうしたらいいの。

「大佐、大佐。あれ、素ですよね。大丈夫なんですか、あの子」
「さぁ、どうでしょうねぇ」

なんてのんびり言ってる後ろが腹立たしい。
ああ、もう!

「あのガイさ───」
「お母さぁあああん!!」
「ぐふっ!」

ガイさんに声を掛けようと物の見事にガイさんが吹っ飛んだ。
え、え?

「ふ、さすがファラ直伝の跳び蹴り! これで俺がお母さんを守るからね、ね!!」
「ちょ、え、ディーヴァくん?!」

ってかガイさん?!
ファラさんも何を教えてるのさっ!

「お母さん、パニールがおやつの時間だって! 行こ」
「いやでもガイさん、」
「ガイはいいの!」

行くの、と言って腕を引いて歩き出したディーヴァくんに引きずられるようにホールを後にする。

「こりゃあ、本国には帰れませんね、たーいさ☆」
「でしょう? さすが優秀な私の部下です」
「その言い方、大佐が優秀みたいじゃないですか」
「えぇ、まぁ。───違いましたか?」
「いいえ、まさか」

なんて会話をしている上司と部下は、ガイさんをそのままに放っておいたままだった。



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