最近の子はこれだから、


お母さん、お母さん、と、意識を失った少女を抱きながら青年が泣いていた。
───俺が、斬った。
ルークを庇おうとしてくれた彼女を、俺が傷付けた。
さらに言うなら、追っ手だと勘違いしたまま、俺が傷付けたのだ。

「とりあえず、船に戻るぞ、ディーヴァ」
「お母さんは」
「俺が背負う。ちょっと疲れて寝ただけだから、心配すんなって」

ルークとはまた色合いが違う赤毛の青年はそう言って少女を背負う。
ぱたぱたと未だ涙を流す銀色の髪の青年は、きっと俺を睨んできた。

「来て、」
「え?」
「俺達の任務は、あなた達を保護することだから。だから、一緒に来て」
「それは有り難いですね、お言葉に甘えましょう」
「あ、あぁ。………ティア、ルークも看てやってくれるか?」
「えぇ」

それから青白い少女の顔を見て、俺にどんな償いが出来るだろうと悶々と悩み出した。




   □■□




ふ、と意識が戻った時、わたしはすでにバンエルティア号に帰ってきていた。
あ、えと、医務室………?
身体を起こそうとして、すっと目の前に手が伸びてそれを制される。
………?

「ゆっくりとなら、身体を起こしていいそうだ」
「あ、はい」

言われ、気を付けて身体を起こす。
左腕に力を入れるとまだかすかに痛いので、確かに身体を起こすのにも一苦労だった。

「───あ、」
「痛むかい?」
「あ、いえ、大丈夫、です」

首を横に振ってから、目の前にいる人をまじまじと見る。
あの金髪さんだった。
でもなんでこの人がここに?

「ディーヴァが居ない時を狙ってここに来るのは一苦労だったよ」
「はぁ、」
「俺はガイ。ガイ・セシルっていうんだ。………君の名を聞いても?」
「あ、依都、です」

金髪さん───セシルさんはそう、と静かに目を細めた。
それから、ふと顔を俯かせ、低い声で何か呟く。
聞き取れずに目を瞬かせて待っていると、彼はゆっくりとその言葉を口にした。
すまなかった、と。

「え、何が、ですか? どれが、ですか?」
「君達を追っ手───ナディと勘違いしてしまったこと。君達に剣を向けたこと。君を斬ってしまったこと」
「………………」

な、ナディって何だ、と思いつつもそれは口には出さない。うん、わたし空気読める。

「あ、の」
「うん?」
「赤髪の美丈夫さんは、『やんごとなき身分』の方なんですよね。なら、その、不意に近付いてきた人間を疑うのは仕方ないと思います」

それに、こちらの対応も良くなかったのだ。
最初からギ、ギルドの者だって言えば、また状況は違ったかもしれない。
セシルさん達を勘違いさせる状況を作ったのは、わたし達の方かもしれない。
だったら、わたしは、

「ゆ、許します、よ………?」
「え………?」
「あ、いや、なんか変ですね、『許します』って。あの、別に怒ってませんよ、最初から」
「でも、」
「だって、わざとじゃないですし」
「───でもそれじゃあ、俺の気が済まない」
「へ、」

響いた声に、目を瞬かせる。
え、なに。セシルさん、なんて?
聞き返す前に医務室のドアがノックされる。
しゅん、ともう聞き慣れたスライドの音に安堵を覚えたのも束の間、あの悶絶級の美少女がそこにいた。

「ガイ、ディーヴァが帰ってくるわ」
「! すまない、依都。詳しくはまた」

そう言ってセシルさんは医務室から出ていってしまった。
え、この怪我の話、まだ引きずるの?

「具合はどうかしら」
「良好だと思います。………えっと、」
「ティアよ。ティア・グランツ」
「グランツさん、ですね。わたしは依都です」

先ほどまでセシルさんが座っていた椅子にグランツさんが座る。
美、美少女がこんなに近くにいるなんて………!
ときめきハンパないです、ご馳走さま!

「単刀直入に聞いても?」
「?」
「貴方、本当にディーヴァの母親なの?」
「いえ、あれはなんて言うか、『呼称』の一種、みたいな感じですよ?」
「じゃあ、カノンノが言ったことは本当なのね」
「カノンノさん?」
「記憶喪失であるディーヴァが唯一覚えていたと言ってもいいことが、貴方が『お母さん』であること」

まったく持ってその通り過ぎて二の句が継げられない。
こくこくと頷くと、グランツさんは少しだけため息を吐いた。

「貴方も大変ね」
「あ、でも、悪いことばかりじゃないですから」
「………ねぇ、依都。ファミリーネームである必要も、敬語である必要もないわ。同い年ぐらいでしょう?」
「じゅ、18」
「………年上、なの?」

え。
最近の子は発育いいなぁ、と思わず胸元をじっと見たわたしは年上として大変宜しくない部類なのだろう。



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