空を見上げて、今朝よりもずっと高く昇った太陽の強い日差しに、目がくらりと眩んだ。
 儀式に向けて練習のために空を飛び交っていた鳥たちも、すっかりいなくなっていた。そろそろ鳥乗りの儀が始まる時間が近付いてきているからだ。
 だけど、きっとリンクはまだベットの中でぐっすり眠っているに違いない。
 その様がありありと思い浮かんで、私はふと笑みをこぼした。
 このまま寝過ごすのを放っておくのはあまりにも可哀相だろう。ゼルダは鳥乗りの儀の女神役としての準備で忙しいだろうし、起こしに行ってあげよう――なんて、上手いこと理由を考えるが、結局は私自身が起こしに行きたいだけなのだろう。
 私は光の塔を下りようと梯子に足をかけたその瞬間、大きな鳥の影が4つほど、頭上を滑空して行った。それに伴って巻き起こされる強い風にぎゅっと力強く梯子にしがみつく。
「もう、危ないじゃないの。落ちたらどうしてくれるのよ……!」
 ぶちぶちと文句を言いながらも、私は危ない目に合わせてくれた犯人たちが飛んでいった方向へと目を向ける。4匹の鳥たちの先頭を行くのは紅色の鳥だった。
「あれはリンクの……」
 スカイロフトで紅色の鳥を持っているのはリンクだけなので特定は容易い。リンクははっきりと断言するがまだ寝ているので、誰も乗っていないはずだ。
 無人の鳥を追いかけるだなんて、性質の悪いことをする。憤りながら、私は梯子から足をどけて、再び塔の上に立ち、目を凝らした。4匹の行方を視線で追いかける。
 リンクの鳥を追いかける3匹の鳥は有り触れた色合いだが、あの3色の組み合わせでつるんでいるトリオにフィアは心当たりがひとつだけある。
「バドたちね……」
 いわゆるガキ大将のバドにその取り巻きのラスとオスト。あの3人がつるむとろくなことをしないうえに、バドはゼルダに惚れているから、そのゼルダがいつも一緒にいるリンクが気に喰わなくていつも突っかかっている。
 今日が何の日かを考えれば、バドたちがどういうつもりでリンクの鳥を追いかけているかなんて想像は直ぐにつく。
 追いかけっこをしている4匹たちは、やがて滝の方へと消えていった。
「放っておくわけにもいかない、か。寝ていても起きていても世話が焼けるわね、リンク」
 溜め息を吐きながら、私は滝の方へと向かうことにした。

 リンク。せめて起きる方は、自分で頑張ってちょうだい。



***



 バドたちの姿を追いかけて滝の近くまでやってきた私は、息を切らせながらもきょろきょろと周囲を見渡す。3人の姿は見当たらないが、間違いなくこの周囲にいるはずだ。私は昔から勘が良く働いて、特に探し物は結構得意だったりする。さすがに百発百中とはいかないけれど。
 一体3人はどこにいったのかとうろうろと滝の周辺を彷徨っていると、しばらくして滝の裏の方からばさりと飛び去っていく3匹の鳥の姿が見えた。
「滝の裏……」
 鳥の居る場所に見当はついたものの、私は途方に暮れた。
 鳥を持たない私には、滝の裏側に行くのは至難の業だ。唯一行ける方法があるが、その場合滝の裏へと続く洞窟を通らなければならない。あそこは人間に害のある動物や魔物が出るし、正直気は進まないのだが――。
 しばし思考を巡らせ、これなら誰かに助けを求めた方がよさそうだと結論を出す。私以外はみんな鳥がいる。滝の裏側に行くことは造作もない。
 私はひとまず騎士学校へ助けを求めに行こうと身を翻そうとするが、遠くから鐘の音が聞こえてきて、ぴしりと固まる。この鐘の音色は、騎士学校のもので、時間を知らせるために一定間隔で鳴るようになっているのだが、それは同時に鳥乗りの儀の開始時間まで、もう幾ばかりもないことを示すものだった。
「時間ないじゃない……」
 誰かに助けを呼ぶつもりだった私は、騎士学校の方と滝の裏へと続く洞窟の入り口を交互に見やり、逡巡した。
 応援して、と言っていたリンクと、リンクに優勝して欲しいとパラショールを一生懸命編んでいたゼルダの顔が脳裏にちらつく。
 このまま鳥乗りの儀に参加出来ないなんてことになったら――。2人の悲しむ顔が浮かぶ。
 私は足元に落ちていた木の棒を掴み取って、ぎゅっと握り締めた。
「何とかなるわよね、多分……」
 あまりにも無謀だと冷静な理性は訴えていたが、私は無理やりそれを押し込み、滝の裏へと続く洞窟へと歩みを進めた。


  

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