狂戦士シリーズ | ナノ
或る次元の観測・星



全ての事象に始まりと終わりがあることは、この大宇宙が、その昔、始まりの大爆発を引き起こしたその瞬間から決まっていたことで、まだ世界に時間の概念が無かった頃から、既に定められた運命であると、星々は全ての生命に語り継いだ。
この星に生まれた生命は、未だ宇宙に飛び立つ文明すら確立していない。けれど、どこかの次元、どこかの時間には、宇宙への架け橋の理論を組み立てていたり、また、既に飛び立っていたり、或いは、二つの月を行き来する魔力を発展させて、廃れて、また掘り起こしたり、そんなことをしているらしい。また、これは殆どの世界に共通していることであるが、空を飛ぶ利器というものは其処彼処に存在しているようである。科学か、或いは魔力か、そこまではわからないのだけれど、やはり上を見上げ、焦がれ、目指すという本能は、どこの世界の人類にも同じように備え付けられているのかもしれない。

シド、という人が居る。
『機械技師』であることが多い。ある次元に於いては、宇宙を目指す最たる者――或いは神とされることもあったが、恐らくは同一の存在であると少女は推測している。彼は少女の力の及ばぬ地平に立っている存在であり、少女もまた彼へ影響を及ぼさない線の上を歩んでいる。何によって齎されたものであるのか、母体や宿主といったモノを媒介にしているのか、または単なる個であるのか、それは少女の預かり知らぬところであり、今後、それの片鱗を垣間見ることさえも無い。故に、詮索するだけ時間の無駄ということに相違なかった。傍観を生業とするこの頃、彼の存在は度々目に映るものの、然程少女の人生や運命の道筋に交わる点は存在しないというのが、少女の結論であった。
しかし、多数の次元に点として存在していることについては、少女の遣わした欠片達と近しい存在であるとも言える。
似て非なるモノ。
非なるものでありながら、彼女と似ている存在。
傍観をしながら、見物として面白いものであると感じている。彼が何者かに遣わされた者であるのなら、その主もまた、少女と同じように彼女達を面白がっているのかもしれない。
広大なる宇宙の中の、狭い世界の上である。
同じようなことを考える者は無数に在ろう。

白の少女は微笑んだ。

この、始まりの世界。最初の彼女が旅をする世界は、他に比べると、比較的平凡な広さの形をしている。1から15の数字で表すなら、6。目を閉じて見据えるその先、瞼の裏に映り込む6番目の世界は、白の少女にとっては全てが始まる時間軸にあり、そして、『愚者』の故郷となる極めて重要な次元である。
そこに息吹を吹き込まれた星屑色の少女を眺めた。彼女はたった今、悲しみの淵を渡り歩きながらも、懸命に現実を見つめて、死の救いへと逃げ込まんとする己の心と戦っている只中であった。

ミユ。

呼び掛ける。
星屑がぴくり、反応した。そうして、右へ、左へと視線を彷徨わせて、小首を傾げる。思念を差し向けるだけでは会話は不可能だが、しかし、断ち切れない因果律の上を歩く者同士、やはり感じるものがあるのだろうか。僅かにでも存在を感知されたことを、流石は最初の娘であると褒め讃えた。

――貴女が、私と世界を繋いでくれる。

白の少女の業を背負って生まれ落ちた少女。今や、あの日から十六年を経て、背も随分と伸びたものである。
宇宙というものは途方もなく広く、星などがその欠片に過ぎないように、人という存在もまた、星の欠片に過ぎない。そういう意味に於いては、星屑色の彼女は、白の少女の欠片のひとつ――或いは、母と子のような間柄とも言えよう。
次元、時間を超える力を有さないからこその、稀なる繋がり。
彼女自身は、おそらくは白の少女のことも、契約のことも、全てを、生まれた瞬間に忘れている。しかし業を背負った魂はきっと『愚者』を導く鍵になろう。
欠片の映すビジョンから、白の少女は次元の向こうを観測する。

"La Stella."

テーブルの上で正位置を示したカードを、等身大のマリオネットがぼんやりと眺めていた。






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