見渡せば君 | ナノ


慣れにも色々と  







「……珍しい組み合わせ、ですね」

「……確かに」


言われてみれば、俺と沖田は以前のことが有るからともかくそこに藤堂が加わるのは何となく不自然な気がしないでもなかった。雪村に指摘されて改めて見渡すとかなり凸凹な面子だ。
俺、沖田、藤堂、貴崎、雪村、千、小鈴。……脈絡無ェな。


「なんや、平助君やったんかー。不知火以外初対面かもって構えてたんやけど」

「……よ、よう」

「あれ、小鈴ちゃんと平助君、知り合いなの?」

「バイト一緒やねんで。な、平助君」

「は、ははっ!まーな!?あはは……」


小鈴と藤堂は知り合いであったらしい事実が意外と言えば意外だが、それ以上に小鈴に対して中々煮え切らない物言いをする藤堂の態度の方が気になった。何か弱味でも握られてんのか、或いは単純に『苦手なタイプ』ということなのか、何にせよ見ていて面白いことに違いはない。しかし今はそれどころではないのだった。
貴崎は遠目で見たよりも幾らか顔色は落ち着いて見えて、先より具合はマシであるように思えた。昼飯食ってる間に回復したのかもしれない。
今はそれよりも、急に大所帯になっていることに対しての心情方面が忙しそうだ。

そんなこんなで急遽合コン紛いな謎の集団がここに結成されたわけだが、取り敢えず俺は自身を巣食う嫌な感覚を払拭するため、今回もまた貴崎の世話を焼くのだった。











「大丈夫かよ」

「……うん」


適当に折を見て目的の人物をロビーに連れ出してから約五分。それまで無言で下唇を噛んでいた後輩に対してようやく放った一言がそれだった。
貴崎は頷きこそしたものの、案の定全く納得しておらず、且つやはり体調の方も芳しくはない。そういった心境であるのは見てすぐ察せられる様だったが、どうやら身体のことについて、あの三人娘には話していないらしいというのが俺の中に引っ掛かりを産んでいた。

こいつの交友関係を広めようという俺の思い付きは、元を辿れば貴崎の事情について知る者が少な過ぎることへの不安定さが切っ掛けだ。俺や婆さんの目の届かない範囲でもそこに気を配ってくれる人間が居れば、という目的のはずが、貴崎自身がどうもそれを拒んでいる。
直接本人にこれを話すのは憚られたが、しかしそれでは以前、貴崎と『仲が良かった』という顔も知らない奴等の二の舞にならないか、というのが現状不安な点だ。
おそらく今集ってる奴等は(成り行きで何故か一緒に居る藤堂も含め)、病気や家庭の話をしても物怖じせず接し方も変わらないような人間ばかりだ。意図的にそういうヤツに声を掛けて繋いだ。
しかし肝心なのは貴崎だ。……時間が必要なのはわかっちゃ居るが。


「匡君」

「ん?」

「……ううん、なんでも」


貴崎と出会ってからどれだけ経ったか。5月の始め頃、それから体育祭を通してひと月程度と言ったところだが、しかしその俺に対してもまだこれだ。ついこの間知り合ったような相手におっかなびっくりなのは、現時点ではやはり致し方無いのだろう。


「言いたいことが有るんなら言えよ。こっちが後味良くねえ」

「……そう、かな」

「ああ。ほら、話せ」




「本当言うとね、ちょっとしんどい」

「ばーか。もっと早く言え」

「ご、ごめん」

「……」

「……でも、まだ帰りたくないな、って」


知ってる。
見りゃわかる。

わかるが、今コイツ本人の口から聞けたことで何処か胸の支えが取れた気がした。
端的に表すなら、柄にもなく『安堵した』。内容は明るいものでないだけに妙な話だが。

何故だか無性にそうしたくなって貴崎の頭を撫でてやる。俺の心情と違い貴崎の方は普通に甘んじて撫でられたままで居るところを見ると、多分婆さん辺りからか、こんな態度にも『慣れ』が有るのかもしれない。
……ガキみてぇなヤツ。
そう考えて、その印象がこの貴崎羽織という人間に最もピッタリ当てはまることに今更気が付いた。話し方も、態度も、高校生と言うにはまるで幼くてガキそのものである。沖田が俺のことをパパさんというのにも強ち外れていないかもしれないと思い始めたのは果たして19という年齢上如何なものか。


「お前はどうなんだ、このまま残ってても大丈夫そうか?」

「さっき、こっそり計ったの。熱、ないし、ゆっくり動けば大丈夫だと思う」

「そうか……ま、取り敢えず婆さんには連絡入れるべきだろうな」

「メールしたら、『辛いようなら頃合いを見て帰ってきなさい』って」


……流石、長年体質との付き合いが有る分貴崎の方が程度にも対処法にも詳しい。体温計を携帯している時点でその背景が窺えた。










慣れにも色々と



「行けそうなら歌ってこいよ。折角ルーム代払ってんだ」

「うん、そうする。匡君は歌わないの?」

「……上手くねえからな、歌」





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