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普通なら躓かないような小石に爪先を引っ掻けたとき、違和感に気がついた。意識してしまってからは早くて、それまで普通に見えていた景色までもが暗く霞んで見えてしまう。
気の所為かもしれない。
しかしそれでも足取りは重くなる。私の場合の体調不良って、自覚した途端に悪化するケースが殆どだから。
――今日に限って。
折角匡君が紹介してくれた新しい友達との、最初の約束の日に、この始末。万全にしてきたのに。いつも以上に気を張って……ああ、それが良くなかったのかも。
いつになく緊張していた。久し振りの感覚で……だからって体調を崩すなんて情けない話だけれど、つまりはそれだけ身体が強張って居ることにも気付かないくらい楽しみにしていたのだ。
「羽織ちゃん?」
「!」
不意に掛けられた声に、咄嗟に俯いていた顔を上げ前を見た。千ちゃんと千鶴ちゃんはショーウィンドウの前で何か話していて、端から見れば過剰にも見えるようなリアクションを返してしまった私に小鈴ちゃんだけが首を傾げている。
鈴鹿小鈴ちゃん。
千ちゃんと千鶴ちゃんの共通の友達で、千ちゃんの従姉妹なのだそうだ。良く周りを見ていて気配り上手なお団子頭の女の子で、……頻繁に、私を気に掛けてくれる。
「どないしたん?顔色悪いで?」
「ん、……と」
「あ!もしかして歩くの、疲れはった?」
途中で倒れて心配は掛けられない。早めに伝えて帰らないと、悪化してしまう。
小鈴ちゃんに話しかけられたのはそれを伝える絶好のチャンスだったのだ。
「……」
――話せない。
「ううん、大丈夫。ありがと」
全然大丈夫じゃない。段々身体が重くなって呼吸さえまともに出来ているかわかったものではないのに、話したくなかった。まだここに居たい。何も出来ていない。
ここに来てすべきことをまだ何もこなしていない。例えば千ちゃんの言うゲームセンターに入ったりとか、小鈴ちゃんの言う買い食いをしたりとか、千鶴ちゃんの言うカラオケに行ったりとか……何でも良い、とにかく『何か』を。何かして、全員で楽しんで帰るのが誘ってくれた皆への礼儀。
いつまでも人と距離を置かないといけない生活なんて嫌だ。折角仲良くなれそうなのに。
おばあちゃんとも相談して誰かを遠ざける生活はもうやめる筈だったのに、何故今、みすみす切っ掛けを逃さなければならないのか。
理不尽。
病気になんか負けたくない。
「そう?なら良いんやけど……」
嘘を吐いてしまったことへの罪悪感と元の不安が折り重なって暗い感情が渦巻く。そのとき――不意に千ちゃんが、携帯を見つめて怪訝な顔をした。
「もしもし、不知火?どうしたのよ急に」
そんな折りに、また。
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