見渡せば君 | ナノ


電撃作戦を敢行する  





「さて、Xデーだ」

「厄日だ……」

「そんなこと言わず楽しめば良いのに、平助」


千と街中で遭遇してから、つまり貴崎に三つのコミュニティルートが開通されてから数日が経過した。その間特に大きな事件は無く、強いて挙げるなら園芸部の活動場所である裏庭にアジサイの紫やら青やらが追加された程度の中々に平凡な日常を過ごしたわけなのだが……今日はそんな日々が嘘だったかのような緊迫の渦中に身を置き、雪村を紹介した日と同じように物陰で息を潜めながら、俺を含む男三人が駅前通りの様子を伺っていた。最初の台詞が俺、続いて藤堂、沖田だ。
さて、冒頭の通り今日はXデーになる。端から見れば阿呆らしいことこの上無いが俺にとっちゃワリと重要な日にあたるわけだ。
つまるところ貴崎が初めて女友達と遊びに行く、例の日曜日である。
……まあアレだ。要するに『尾行』だ。

取り敢えず野郎が一人で行動するにはあまりにアレだったので沖田だけ呼んだはずが、何故かくっついて(拉致されて?)来た藤堂はゲンナリした顔で朝飯らしきあんパン食ってた。牛乳が有ればそこそこ雰囲気出てて完璧だったが敢えて突っ込まない。


「不知火が羽織ちゃん心配して尾行したいっていうんだからさ、付き合ってあげようよ」

「心配じゃねえ、興味だ」

「誰だよ羽織って……今日中に攻略中のダンジョンクリアしたかったのに」

「だって面白そうじゃない。あの、不知火が、女の子追っかけ回す計画だよ?」

「ああ。中々見物だからな、貴崎の間抜けぶりは」

「そこ否定しないのかよ……」


ま、藤堂については予想して居なかったが、万一貴崎が何も仕出かさなかったにしても代わりに弄り倒せる対象が居るのは有り難い。流石俺と通じるところが有るらしい沖田はその辺の事情もわかっているようだった。俺自身にも降りかかっている毒については気にしなければ問題無い。
要するにだ。
先にも沖田が述べたように、俺達は今日一日貴崎達の後をつける計画を立てていた。まあ計画と言っても千がデカイ声で宣言してくれたお陰で集合場所等はわかっていたし、勢いに乗じてバレないよう付いて行くだけの話なのだが。

例によって退屈凌ぎと、貴崎の友達を増やす目的の経過測定との両方を兼ねている。ストーキング上等、そこそこスリルが有って且つ面白いものを干渉できるかもしれないメリットまで転がっているのに拾わずには居られねえだろ?普通。


「……って、良く見たら小鈴じゃん!」

「ん?平助の知り合い?」

「う……ま、まあな……」

「おいデカイ声出すな……!」


藤堂の声を隠すべく、俺達も町並みに紛れて行動を開始した。

――の、だが。


「危ないな……あの子」


ぼそ、と呟いた藤堂の一言に尾行組は全面同意。雪村や千や小鈴が先導する中、貴崎は後ろからいつもの足取りでトテトテ付いていっているわけなのだが……何度かコケそうになっては小鈴に助けられていた。転倒こそしないものの、段々足が重くなっているようにも見えるのが少し気掛かりだった。
誤解の無いよう註釈を入れるが貴崎は典型的なドジっ子ではない……今のところは。普段ならこんなに頻繁に転びそうになるような歩き方はしないし、本人も自覚は有るらしいので割と用心深く足元を気にしている。
しかし今回はどうも、少し様子がおかしい。

――体調、悪いのか?

尾け始めてそれに感付くまで約十分。現在は四人娘が寄ってったファミレスで、反対側の席から見守っている状態だ。


「……呼ぶか」

「は?」


勘の鋭い沖田も俺と同じ結論に辿り着いたらしく頷いていた。事情を説明していない藤堂だけがキョトンと目を丸くしていたが(序でに沖田に写メられていた)、あまりこの手の情報は広めるものでもないのでこれに関しては放置して、とにかく対策を講じてみることになったのだ。


「近くにカラオケ有ったろ。食い終わったら先に入って、アイツら誘ってみるか」

「賛成。三人は僕らでフォローするから、羽織ちゃんは任せるよ、パパさん」

「パパじゃねえ」

「なあ、二人ともどしたんだよ急に」

「事情が変わったんだよ」

「そう言うこと。悪いけど平助、午後からは僕に合わせてくれない?」


藤堂のハンバーグ定食に七味ぶっかける一歩手前で留めつつ、お願いという名の脅迫を掛ける沖田をよそに、俺は被害を受ける前にさっさとマグロ丼完食してから携帯を取り出しコールした。

決まったなら早いうちに店に連絡しておいた方が良い。今から予約入れて部屋が空いているかは定かではないが、直に行くよりはマシだろう。









電撃作戦を敢行する


「ギリギリひと部屋だ。フリータイムで取った」

「パパさん用意周到だね」

「だからパパじゃねえ」





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