見渡せば君 | ナノ


三人目ゲット  







結局今日貴崎は、雪村のオマケで沖田という絡み辛い友人を獲得して俺と二人帰路についている。アイツらは用事が有るとかで個々に去っていったし、途中で中断させてしまった花の水やりだけ終わらせてから貴崎を家まで送ることになった。が、丁度門前に差し掛かったとき、聞き覚えの有る声が背後から聞こえて足を止める羽目になる。


「不知火ー。風間が探してたぜ」

「……」


井吹龍之介。中々……かなりからかい甲斐の有る万年貧乏の阿呆である。普段なら喜んで弄り倒すところでは有るが、しかし今、井吹の方が俺に厄介事を持ってくるという珍しい事態が発生しているらしく思わず眉根を寄せた。

風間が探してた、か。

大方井吹は買収されて本人の代わりに俺を探し回ってたんだろう。多分500円くらいで。
これっぽっちも良い予感がしなかった。


「貴崎、何か聞こえたか?」

「え?」


無視一点だ。聞こえないフリ。

貴崎に視線を投げ掛け『合わせろ』と声を駆使せず訴えた。果たして通じたかどうかは微妙な線だが(ボケッとした顔見てる限りかなり怪しい)俺は構わず井吹から距離を取った。
当然そうなれば井吹は吠える。


「っておい!足止めろよ!」

「あー、何も聞こえねえなあ。お前も聞こえねえよな?貴崎」

「えっ……あ、うん!何も!」

「コラそこの女子生徒A!何便乗してんだ!おい待てって不知火!」











「さっきの誰?」

「わんころ」

「……」

「ま、気にすんな」


奇跡的に貴崎の協力を得られたことで、何とか井吹を振り切り学校から離れることに成功したわけだが、道中で貴崎はどうにも煮え切らない顔をして足元を見詰めていた。先のやり取りが引っ掛かっているらしい、というのは見ていればすぐ察することが出来た。


「用事あったの?」

「風間の方は有ったらしいな。俺は無ェ」

「ふうん……なら、まあいっか」

「おう」


用が有ったはずなのに自分に付き合った所為で俺が約束を反故にしていないか、と気に病んでいたようだが、俺の方は元から何も何も予定が無かったことを告げると安心したように笑顔を向けた。全く変なところで気を使う奴だ。


「あら?不知火?」

「……」


一難去ってまた一難。

今日はいろんな奴から似たようなシチュエーションで声が掛かるな、と背後の女を振り返った。
お嬢様学校の制服を着た容姿端麗の部類に含まれるであろう生徒が、丸い目でこちらを見ている。折角の気品だが、手に持ったたこ焼きと口についた青のりがそれを見事に台無しにしていた。残念な女だ。
鈴鹿千。
腐れ縁。
主に風間関係の。

最近『買い食い』と言ったものを覚えたらしく、千は従姉妹の小鈴と一緒に何かしら買ってはキャイキャイ喋りながら食うという、至って普通の女子高生ライフを謳歌しているようだった。リムジンのお出迎えも無し。こんな商店街をそんなお高い制服来て、あまつさえ一人で彷徨こうもんならチンピラ共が放っておくはずも無ェってのに、何暢気なことしてんだこいつは。危険極まりなかった。


「寄り道?相変わらず不良ねー」

「関係ねーだろ。それよりお前が何やってんだ」

「ふふ、知りたい?これね、『たこ焼き』っていうのよ。とっても美味しいわ」

「だからって良いトコのお嬢さんが一人で街を彷徨くな。せめて制服脱いで私服に着替えてからにしろ」


ふと周りを見渡すと案の定と言うか、千を狙ってたらしいチンピラが舌打ちして去っていった模様だ。間一髪俺達が通り掛かった偶然に感謝しろと言いたい。
しかしそんな俺の心境も察することなく、たこ焼きについての蘊蓄を垂れようとしていた千はむっと眉根を寄せて、反抗期のガキよろしく不貞腐れた顔で反論した。


「何よ、良いじゃない。今日は小鈴が忙しいって言うんだから」

「見知らぬ男に絡まれて拐われて良いように扱われても良いなら、俺はそれでも一向に構わねえがな」

「……。……わかったわよ。次から風間を呼ぶわ」


買い食いしたいだけの理由で他校から呼び出しが掛かれば風間にとっても良い迷惑だろうが、まあこっちからして見りゃ丁度良い憂さ晴らしだ。胸中で南無三しつつ、盛大に嘲笑ってやる。
渋々といった様子で俺の言い分を理解しつつも、不機嫌を隠しもしない千はそこでようやく俺の連れの存在に気が付いた。寄っていた眉の皺が伸び、丸い目が更に見開かれる。


「あれ、その子彼女?」

「違う」


即答した。


「なんだ、違うの」

「ああ」


こんなチンチクリンが彼女であってたまるか。……いや、胸はそこそこデカイが(推測)。

当人たる貴崎はというと、突然声を掛けてきた謎の女の襲撃に怯んだ様子でいたが、しかしすぐ元の状態にまで持ち直すと怪訝な顔で俺と千の顔を交互に見ては首を傾げていた。それもそのはず、千は誰がどう見ても明らかに他校の制服を身に纏っていて、更に、パッと見は明るいがどっか大人らしい印象を受けるような清楚系女子高生であるのだ。俺との接点が全く見当付からないんだろう。
暫く悩んだ素振りを見せた後、そいつは本日一番の間抜けな台詞を口にした。


「匡君、彼女?」


どうしてそうなった。


「たった今彼女か聞かれた奴が彼女なわけねえだろ」

「……あ、たしかに」

「ふーん?一時期複数人と同時に付き合ってた悪い男は何処の誰だったかしらねえ」

「少なくとも俺じゃねえ。有りもしねえ話吹き込むな性悪女」

「匡君、悪い人だったの?」

「だから違、」

「そうよー」

「ええっ?」

「……はぁ」


阿呆らし。
事実、千はともかく貴崎は生粋の阿呆である。成績云々の事情は知らないが常識的に。

一々突っ込みを入れるのも面倒臭くなって、ついに嘆息した。


「なんてね。冗談よ、不知火にそんな甲斐性は無いわ」

「あ、言われてみたらそうかも」

「……」


まあ、言いたいことは色々と有るが。

しかしそれは否定出来ない。家はそこそこ裕福でも実際俺は独り暮らし、親からの仕送りが有るにしても高校生のバイト代だ、たかが知れてる。女なんざ一人以上も作れるはずがなかった。

が、なんか釈然としねえ。


「丁度良い、千」

「ん?」


このまま話を続けて居れば確実に面白くないことになる。そう思い至った俺様はここで、サクッと話題を変えてしまうことにした。


「訳有ってこいつの友達募集中だ。仲良くしてやってくれ」

「……へ?」

「貴崎、挨拶しろ」

「……あっ!う、うん。貴崎羽織です。宜しくお願いします!」

「え?あ、うん……宜しく?」










三人目ゲット



その後、千の寄り道に付き合わされあちらこちらと振り回された俺達だが、まあ貴崎が楽しそうにしていたので良しとする。


「じゃあ羽織ちゃん、日曜の10時に駅前よ!千鶴ちゃんも一緒にね!」

「はーい!」

「……」


雪村のときも思ったが。

打ち解けるの早いなコイツ。





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