見渡せば君 | ナノ


保護者ポジは確定?  







「き、貴崎羽織です」

「雪村千鶴です」

「う、うん。あの、えと、」

「あー……っと、貴崎さんは、部活は何をしてるんですか?」

「あっ、園芸部でお花育ててます!」


よしよし。順調だ。
物陰に隠れながら二人の様子を窺う。俺の隣では雪村の付き猫が不機嫌を隠すことなく隠密行動に付き合っていた。


「……で?何やってんのさ。不知火匡センパイ」

「っせーな、黙って見てろ沖田」


事の発端は以下の通りである。


『貴崎、知り合い増やすぞ』

『ん?』

『取り敢えずお前は交友関係が狭すぎる。婆さんには話付けたから、お前ちょっと頑張れ』

『え、なんで?って、あ、匡君、カザニアの水がまだ途中で、わ、待って、』


以前の原田との会話で現状を打破せねばと考えた俺様は、取り敢えずその日のうちに貴崎の婆さんへ事情を説明し、何とか許可を貰った上でアイツの友達を増やしてやろう作戦を実行中というわけだ。
門前で何やら話していた雪村と沖田のところまで貴崎を引き摺っていき、ちょいちょい話して沖田借りて二人を置き去りにして来た。当然貴崎は慌てていたが、気にせずこうして様子を窺っている。


「あのさ不知火。僕千鶴ちゃんに用が有ったんだけど。相応の理由が無きゃ斬るよ?」

「……アイツは貴崎羽織だ。諸々の事情が有って知り合いが少なすぎるから、今俺が雪村とくっつけようとしてる」

「ふーん……諸々の事情って?」

「身体が弱い。あと家庭環境がそれなりに辛辣だ。あんま広めるなよ」

「……それで、何で君が世話焼いてんの」

「成り行き」


うわあ、と若干引き攣った笑いを浮かべる沖田にイラッとしたので取り敢えず首押さえて片方の手で拳作ってコメカミグリグリしておく。沖田の方も負けじと俺の足踏み付けてたが気にしたらアウトだ。こう言う『先に音を挙げた方が負け』系の喧嘩は、攻撃する方に意識を持っていかないと痛覚が敏感になって、つい痛いとかギブとか言ってしまうのだ。だから俺も沖田も互いへのを攻撃を休めることなく数分間無言でそうしていたわけなのだが、しかしやってる間に段々頭が冷静になって来てどちらからともなく手足を離した。阿呆らし。何やってんだ俺は。


「にしても、らしくないね。頭でも打った?」

「風穴開けるぞテメェ」

「全弾斬り返してあげる。……でもまあ、そう言う話なら協力しないでもないよ」

「……お前ェもらしくねーな沖田。頭でも打ったか」

「いや?面白そうだし」


至って通常運転だった。


「ところで不知火。何も千鶴ちゃんに限らなくてもさ、知り合いは多い方が良いでしょ?」

「まあ、行く行くはな」

「早い方が良いよ。仲間外れなんか退屈だし、僕も紹介、」

「却下だ。原田とお前と南雲はまだ刺激が強すぎる」

「……あはは、何それ」


沖田のチクチクする物言いに貴崎が堪えられるようには思えない。と言うより、一々それに反応しては弄られて拗ねて的な構図がすんなりと目に浮かんできてあまり面白くなかった。別に貴崎が誰と仲良くしようが貴崎の勝手で、寧ろ俺にとっては喜ばしいところではあるのだが、何だかんだと言って俺だって貴崎を気に入っている節が有るのは否定できなかった。
何が言いたいのかと言うと。

俺以外が貴崎を虐めて楽しむのは、実に面白くない。序でに言うなら拗ねた顔を誰かに見せるのも惜しい。
あれが可愛いんだアイツは。なんて考えるのは悪趣味だろうか。


「お先」

「なッ、おい待て猫野郎!」


そうこうしている間に沖田がさっとその場を離れて女子二人の中に入っていってしまったので、舌打ちしつつ追い掛けた。
……あーあ。


「ただいま。戻ったよ千鶴ちゃん」

「……戻った」


もうちょい見てたかったのにな。阿呆の阿呆による阿呆のための会話。残念だ。


「あ、お二人ともお帰りなさい」

「匡君、おかえり」

「ああ。どうだった」

「うん、仲良くなった。明日一緒に帰るの」

「……マジか」

「うん」


俺と沖田が阿呆なやり合いしてる間にそこまで仲良くなってたか。嬉しそうに両手を握る貴崎を見て一先ずは安堵した。
やればできるじゃねーか。

沖田がまたニヤニヤとこちらを見ていたので軽く睨んでやると、何処吹く風と言った態度で貴崎に絡みに行きやがった。……しゃーねえ、こっちは諦めるか。一難去ってまた小さな一難がやって来たわけだがこればかりは仕方の無い事象で、雪村と仲良くなれば必然的に沖田だの斎藤だの藤堂だのと面識が広がってしまうのは避けて通れない道だった。
原田は既に遅いし、南雲も時間の問題だろう。

……前々から気にはなっていたが、雪村はもう少し安全な交友関係を築くべきだと思う。


「じゃあ雪村。明日コイツ頼むわ」

「はい、頼まれました。……ふふっ、何だか不知火先輩、羽織ちゃんのお父さんみたい」

「……」

「あれ、不知火先輩?」


……お父さん。


「へえ、自覚有るんだ。お父さん?」

「ねーよ。せめて兄貴くらいにならないのか、それ」

「え?あっ、すみません!」

「不知火センパイは妹趣味、と。危ないなあ。気を付けなよ、貴崎さん」

「はーい」

「乗るな貴崎。黙れ沖田」











保護者ポジは確定?


言われて初めて、嫌いなはずの面倒事へと自ら首突っ込んでたことに気が付いた。





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