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探偵×リドル



純黒のベルベットのソファーに深く腰を掛けるというよりも、沈み込むように座って彼は眠っていた。しかしそれは過労の疲れをとるための一時の睡眠であって、眠りは浅かったためこの部屋の重い扉が開く音で目が覚めた


「お休みのところ申し訳ありません…リドル先生」


彼は薄く目蓋を開けて声の主を見ただけのつもりだったのだが彼女には睨んだように見えたのかもしれない。その声が微かに震えていた。
彼は「コーヒー」とだけ短く言うと深く沈んでいたソファーから重い腰を上げ、閉めきりになっていたカーテンを開けた。少しだけ仮眠をとるつもりが、だいぶ長い間眠ってしまっていたようだ。空はもう紅く染まっている。
彼女がコーヒーのマグを当然のように机に置こうとしたところを遮り、手渡しで受け取ると普段なら絶対にしないその行為に驚きつつも安心したのか彼女は微笑んで、さっきまで僕が眠っていたソファーに腰掛けた


「リドル先生はどんな難事件でもすぐに解決してしまってすごいです。先週の依頼者の方も、とてもお喜びになっていましたよ」

自分のコーヒーに砂糖を入れて静かにかき混ぜながら彼女は笑った。僕も手にしたコーヒーを一口啜ると、彼女の隣に腰掛けた

「でも、」


三杯目の砂糖を入れながら彼女は視線を僕に向ける。


「名探偵のリドル先生なら私の気持ちも解るのですか?」

ろくに役にも立たないことを問いかけてくる女だ。


「さぁ。」
「あら、先生にも解らない難問の登場ですね」


彼女はふふっと鼻で笑ってコーヒーのマグに唇をつける、その前に僕の唇をつけてやった

彼女の手にしていたマグが静かに絨毯の上に落ち、その中身で大きなシミを作った



「馬鹿め。コーヒーは苦いままの方がいいんだ。」



(僕に解らない難問なんてあるわけないだろう)





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