box | ナノ
道化師ならば笑えたのに


※ヒロイン(?)はブラック家に仕える屋敷僕妖精の設定です












ガチャ

玄関のドアが開く音がした瞬間私は走ってそこまで行って深く頭を下げる。クリーチャーや、その他の屋敷僕より先に。


「おかえりなさいませ、シリウスお坊ちゃま。コートお預かり致します」
「あぁ、サンキュー」


綺麗な黒髪の隙間から覗いた優しい微笑み。他の屋敷僕妖精には向けられない微笑み。そう思うと、心臓が疼く。


高貴な純血の家系に生まれたシリウス様と、そこに雇われている屋敷僕妖精の私。
バカバカしいと分かっているのだ。分かっているのだけど私は、シリウス様に恋をしている。
シリウス様が幼い頃から身の回りのお世話をして…夜眠れないとだだをこねていた時には奥様の代わりに絵本を読んで差し上げたこともあったっけ。旦那様も奥様もレギュラス様もお留守の時に、一緒に隠れんぼをしたこともあった。


「お前、他の屋敷僕妖精たちと違うな」
「…それはどういう意味でしょうか」
「俺、お前は好きだぜ」



あぁ、この時からだったのだろうか
心臓がドキドキするという初めての感覚が私を襲って、何もお返事することができなかった


年頃になり、シリウス様が女性を家に連れて帰ってくることも多くなった。
あの時のシリウス様の「好き」という言葉に少なからず淡い期待を抱いてしまっていた私は大馬鹿者なのだ。現実を見ろ。私は屋敷僕妖精。シリウス様は人間、それも、特別な方なのだ。
頭では分かっているはずなのに、目から零れ落ちる涙は止まらなくて。
あぁ、


道化師ならば笑えたのに


今日も「おかえりなさいませ」と言う私はちゃんと笑えているのだろうか








title:by「アダムの溜息」



- 6 -


[*前] | [次#]



- ナノ -