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ルージュと一緒に召し上がれ



カツカツカツカツ…バサッ

「着いてくるなと、言っただろう」

バサッ…カツカツカツカツ


カツカツ…バサッ

「何度言えば分かる。着いて、くるな」





あぁ、やっぱり好きだ。と思った
ちょっと息の上がった、さっきよりトーンの下がった低い声だとか、大袈裟なローブの翻し方だとか。
叫んだ。小さくなった黒い背中に向かって。









ペタペタペタペタ

あれほど着いてくるな、と言い聞かせたのにも関わらず相変わらず我輩の後ろから聞こえてくる足音は止まない
何とも間の抜けた足音だ
我輩が進めば進み、止まればそれは止んだ
いい加減にしろ
言ったはずだ。もう怪しからん関係は終いにしようと。
もう一度、先程より声を荒げれば、回廊に自分の声がこだましてなんとも奇妙な感覚になった。


カツカツカツ…

もう足音は聞こえない
それなのになんだ、この空虚感は。
やめろ。これでいいはずだ、これで。
自分に言い聞かせてまた足を踏み出した

カツカツカツカツ

自分の足音しか聞こえなくなったはずの回廊に、今度はシャンプーの声がこだました


バサッ…カツカツカツカツ

もと来た道を戻る
この回廊はこんなに長かったのか
あいつは、あんなに後ろにいたのか
シャンプーの表情が、見えない

カツカツカツカツ

…なんて間抜けな顔をしているんだ

カツカツカツカツ

涙が、こぼれるのが見えた

カツカツカツ

手を伸ばす

カツカツ

人差し指が、くしゃくしゃの前髪に触れる

カツ…

親指が、頬を伝う涙に触れる

唇が、唇に触れる







もう進む必要はない






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