俺のハイト関係の苦労はグラン達が雷門に負けて、"エイリア学園"が消えた後も絶えることがなかった。
恐らく上下関係やらチーム間のしがらみもカオス結成時以上にバッサリと取り払うことが出来たからだと思う。
だが回数を重ねるにつれ、ハイトの対処の仕方も分かってきた。そして奴の前では"鍵"という存在がまったくの無意味であることも理解せざるをえなかった。
朝、カーテン越しに差し込む朝日をぼんやりと認識した俺は、まだ眠いと主張する脳に従って二度寝に走ったのだが……。
*
「晴矢、晴矢ー?」
「!!!!??」
「ちょ…何でそんなに驚くの、何で臨戦体勢に入っちゃうの?」
俺が再び目を覚ました時、まず視界に入ってきたのは色素の薄い髪をした幼なじみだった。
周りを見渡すが、ハイトの姿は見当たらない。まさかベッドの下に潜り込んでるなんてことはないよな……?
「……。」
一応確認してみたが、やはりいない。布団の中にもそれらしき感覚は無し。
「晴矢?何してんの??」
「……ハイトは?」
「え?」
「羽伊那は?いねーの??」
「羽伊那?ああ、多分食堂じゃないかな。というか晴矢、今何時だと思ってんの!」
「さあ……9時ぐらいか?」
珍しく来ねえと思ったら食堂かよ。まあ、あいつも人間ってことだな。
なかなかベッドから降りようとしない俺に対し、茂人は何故か盛大なため息をついた。そして枕元にある時計を俺に見せるように持つと、
「もう12時半だよ?早く着替えないと朝ご飯どころか昼ご飯も無くなるから。」
「……は?」
茂人から時計を奪って針を確認してみる。現在時刻は12時32分……。
「マジかよ!?」
「ほら急いで。」
着替えを終えてなんとか昼飯にありついた俺。後ろから話しかけられ、誰かと思えば機嫌不調の俺を更にイラつかせる顔だった。
「おはよー晴矢、あれ、まだ寝癖直してないの?」
一部逆立った俺の髪を鷲掴みにするコイツは元ジェネシスのキャプテン様。
「悪かったな、そりゃ通常部分だ。」
「ごめん☆」
…………イラッ。
何だよこいつ。
「はっ、何?やけに機嫌いいんじゃねーの?」
「分かる?これから守達とサッカーする約束してるんだ。」
「へえ。」
ぶっちゃけどうでもいい。つーかサッカーなんざ毎日やってんだろうが。円堂守と会うのがそんなに楽しみなのかよ。
ふと、箸を動かす俺の手が止まった。
俺が座っている席のすぐ近くを、羽伊那が通ったからだ。食い終わった食器を乗せたお盆を持ってはいるものの、俺に対して何かしら仕掛けて来るかと思ったら、羽伊那はそのまま俺の隣を通り過ぎて行った。
驚いたのと同時、何だか拍子抜けしてしまった。
というか、あいつが俺を見てスルーするなんてこと、今までにあったか?
「あ、羽伊那!」
「?、何、ヒロト?」
羽伊那が振り向いた。
視線はヒロトに向いているものの、視界には必然的に俺も入るはずだ。
「ねえ、羽伊那もオレと一緒に雷門に行こうよ。」
「え、でも……。」
「いいから、ね?」
「……うん、分かった。すぐ準備するね!」
「……。」
そう言うと、羽伊那は食器を片付けようと首を前に戻す。
俺は、疎外感からか、なんかもやもやした。
「あ、」
思い出したように、羽伊那が再度振り向いた。今度はしっかりと俺を見て、
「晴矢様、おはようございます。今日は随分と遅いお目覚めなんですね?」
それだけ言うと、羽伊那は俺の反応を待たずにせかせかと行ってしまった。
お前が来なかったからだ、なんて、そんなのは言い訳だ。
いつもと違う、昼
―――――――――――