「はあぁ……。」
「な、何でため息?」
目の前にいる羽伊那は、訳がわからないとでもいうかのように首を傾げた。
私は読んでいた雑誌を閉じて、羽伊那に向き直った。
「君達、私は恋愛カウンセラーではないし、私の部屋はお悩み相談室でも何でもないんだぞ!?」
「達って……この部屋には私と風介しかいないんですけど??」
羽伊那は頭にクエスチョンマークを浮かべた。
確かに、"今は"羽伊那の言う通りだ。
…まったく、随分と深刻そうに悩みがあると言うものだから聞いてみれば…。
「結果的には君と晴矢が両想いでハッピーエンド!それのどこが不満なんだ!?」
「不満っていうか、その……。」
羽伊那は顔を赤らめてもじもじしだした。
一言で片付けるとしたら"気持ち悪い"。
私は彼女のその行動を抑えるために羽伊那の肩を掴み、しっかりと目を見て話し掛ける。
「それで、君は一体何を悩んでいるんだ?」
こうなったらさっさと問題を解決して部屋から追い出すしかない。
「あの、ね、その……。」
「はっきりしろ!」
「ぅ、はいぃ!!実は、晴れてめでたく両想いだってことにはなったものの、いざ晴矢様を目の前にすると何故かすんごい緊張しちゃって!?ボディタッチという名のセクハラどころか会話さえ成り立たない状況に困ってるの!!」
「知るかっ!過去の自分を思い出せ!!」
「え〜…。」
ぐだりと床に腹をつけた羽伊那は、そのまま張り付いて中々動こうとしなかった。
どうしたものかと悩んだ結果、私は同じ建物内にいるであろう晴矢にわざわざメールを打った。するとなんと、送信して2分も経たないうちに、晴矢は私の部屋のドアを荒々しく開けたのだった。
「羽伊那!!」
「うわぁっ!?晴矢さっ…、晴矢、何でここに!?」
…ああ、本人の前では様呼び禁止なのか。
「どこ行ったと思ったらお前……はぁ。ったく、風介、こいつは返してもらうからな?」
「むしろさっさと持って行ってくれ。」
何故私が羽伊那を部屋に連れ込んだみたいな感じになっているんだ。
私がもう何回目になったか分からないため息をつくと、晴矢は羽伊那を抱えあげた。
「きぃゃあぁ!?ちょ、ちょっと何やってんですかぁ!?」
「うるせ、いいから黙ってろっつの。」
「は、晴矢最近スキンシップが激しいというか何というか!?」
羽伊那が顔を赤くしてそう言えば、晴矢は歯を見せてにやりと笑った。
「ちょっと前のお前に比べたら大分マシ。俺がいかにお前に困ってたかよっく分かっただろ?」
「うぅ…。」
確かに。
羽伊那もそれに対しては反論が出来ないようで、晴矢の腕の中で縮こまってしまった。
「じゃあな風介。」
「もう来るな。」
「「いや、またこいつ(晴矢)の事で悩んだら…」」
見事にハモった声に、私は拳を握り締めた。
また来るから。
……こいつら。
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