「で、結局、君は羽伊那にどうなってほしいんだ。」

「どうなってほしい、って、」



いざ具体的に言葉にするとなると難しい。



「言っておくけど、」



そこで初めて風介は、本の文面から顔を上げて俺を見た。







「羽伊那が飽きっぽい性格だというのはあながち間違ってはいない。」

「つまり、俺に飽きたと?」

「単純に考えればね。アレが君に懐いて3年、か?結構長続きした方だと思うよ。」






「それは、やっぱあれか?俺がもうエイリアのバーンじゃなくなったからなのか?」







杏に言われたことを思い出し、俺のテンションはまた低くなった。



「さあ。私はバーンと晴矢の違いなんて分からないが。」

「それ、褒めてんの?」

「そんなわけあるか。」

「だよな。」





よし、一旦ポジティブに考えてみようか俺。

これはアレだ、ひょっとしたら押してダメなら引いてみろっつーアレじゃねえか?いや、けどあいつがそんな器用なこと出来るわけがねえ。




「でもさっき、"大好き"って言ってたしよ……。」

「じゃあ、」




俺のその呟きに、風介は読んでいた本を閉じて口を開いた。














「君が"押して"みればいい。」





……随分簡単に言ってくれるよなあオイ。







*







「晴矢様、」

「うぉ!!?」



羽伊那と会ったのは、風介の部屋を出てすぐ。
まさに扉を開けた瞬間。



「あの、少しよろしいですか?」

「ぉ、おぅ。」



いや、むしろこれは好都合だ。あのままうじうじ悩んでたら、結局話し掛けられないということになりかねねえ。



「立ち話もアレだし、俺の部屋でも行くか?」

「いえ、本当にちょっとなので。」






な ん だ と?


こいつ今何と??



いっつも自分から不法侵入してたあの羽伊那が、俺の誘いを断りやがった、だと??



俺が固まっていると、羽伊那はいきなり頭を下げた。



「は!?」


「今まで、ご迷惑をおかけしました。」

「羽伊那、何言って、」

「クララに聞きました。」



何を?



「私やっぱり、晴矢さ…南雲さんにいっぱい迷惑かけてたみたいですね。だから、今まで本当にごめんなさい。」

「なぐっ、!?」



南雲さん?…何だよこの更に一線引かれた感じは。



「やっぱり気持ち悪かった、ですよね?これからは自重しますね。」



自重??

今以上にかっ!!!??



「それってほとんど口きかねーのと一緒なんじゃねーの?」



引きつった顔のまま俺が言うと、羽伊那は俺の顔をじっと見つめて…



「そう、かも、しれませんね。」





心臓が、止まった気がした。





「でも、それで南雲さんのストレスが消えるならいいんです。」

「羽伊那っ、俺はっ!!」



羽伊那の肩を掴んで、唇を近づければ、



「ってぇ!!!」



脇腹に鈍い衝撃が走った。
原因は羽伊那の蹴りだった。



「っ、そーゆーことは、相思相愛の男女がするものです!!」



力の弱まった俺の腕を払うと、羽伊那は足速にその場を立ち去った。



「……。」



つまり、俺と羽伊那は"相思相愛"ではないと。



――――バタン。



部屋に逆戻りした俺に対し風介が言った言葉は、



「御愁傷様。」



それだけだった。







気付いた頃にはもう遅い




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