*南雲視点






入学式なんて、既に在校生である俺にとってはどうでもいい行事ベスト3に入るくらいしょーもねぇイベントだ。

帰り際のSHRを終え、俺はやっと終わったと背伸びをした。





ああ、なのにこいつときたら。



「朝から何にやにやしてんだよ。」

「に、にやにやなんかしてないもん!!」

「してたよ気持ち悪ぃ。」

「な、失敬な!!」



こいつ…。



「……お前さぁ、中学卒業前にした約束とか覚えてる?」

「はい?約束なんてしましたっけ?」

「あー、やっぱしてねぇかもな。」

「あ、そ。」



まあ、ありゃあ軽い冗談みてえなもんだったからな。





*






「うっそ!!南雲まだ歳の数は彼女いない年と同じ!?アンタのそのビジュアルでか!?」

「うるせー。つーかテメーだってそうじゃねえかよ。」

「返す言葉がみつからぬ…。ふん、でも絶対に南雲より早く素敵な相手見つけてやる!」

「お、じゃあ賭けるかよ?」

「いいよ別に?あたしが負けたら一個だけアンタの言うこと何でも聞いてあげる!!」

「は、後悔するぜ?」

「いーよ別に!?」






*






あの頃は、なまえ以外の女と付き合う気なんてなかった。
そんな賭けなんか関係なしに、お前自体を俺に惚れさせてやるって、思ってたから。

けど、なまえが俺に好きだと言うことは絶対に無くて、俺に別の女がいると知っても、あいつの反応は実に薄っぺらいものだった。



「…"何でも"、ね。」

「何が?」

「なんでもねぇよ。」



もしあの約束が有効で、要求を、俺の女になれと言ったのなら、お前は何と言うだろうか。



「…あーあ、こんなことなら契約書でも書いとけばよかったぜ。」

「いや、だから何が?」

「…なあお前、何で高校の入学式なんかでわくわくすんの?」

「あ、はぐらかされた。 …入学式か。そりゃ、彼氏の入学式とあっちゃ祝わぬわけにはいかないでしょうが。」

「彼氏?」

「うん。可愛くてぇかっこ良くてぇ、もうこちらとしては結婚を前提にお付き合いしています的な!?」

「へーそうかよ。どーせテメーにお似合いのブッサイクな奴なんだろ?」

「な!?なんてことを!!マジで怒るよ!?」



結婚前提の彼氏とか、ちょっと俺初耳なんだけど。



「なんか晴矢機嫌悪い?ああ、昨日また新しい彼女と別れたばっかりだからかぁ!!」

「うっせーよ。」

「痛っ、女子の頭を叩くな!!」



うるせえと思いながらも、また今年もこいつと同じクラスだということを喜ぶ自分もいて。
そしてまた、これでまた虚しい片想いの日々が続くのかと思うと、切なくてため息が出た。






*






昇降口から校門へと続く道は、満開の桜で彩られていた。



「ぁ、いた!」



そしてお前は、心底嬉しそうに、俺の隣から駆け出す。



「なまえ先輩!」



舞散る桜の花弁の中で笑う、真新しい制服の胸に花を差した後輩…

俺と正反対の、穏やかな笑みを浮かべる男の元へ。








くだらない意地なんか張るんじゃなかった。





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