*立向井視点
今日、久々になまえ先輩から電話があった。なまえ先輩の声を最後聞いたのは、彼女の卒業式以来だったから、いきなら電話がかかって来た時には驚いた。
「たちむー聞いてよ〜!あたし失恋しちゃった!」
「え、なまえ先輩って好きな人いたんですか!?」
中学時代、なまえ先輩からは何度か相談を受けていたけど、恋愛については受けたことがなかったから、てっきり色恋沙汰には無関心なのかと思っていた。
そっか…先輩、好きな人、いたんだ。
「立向居は彼女出来た?」
「いえそんな!周りはいっぱいいますけど、俺なんて全然…。」
正直な話、異性からの告白なら何度も受けた。しかし、それら全てを断った。
俺には好きな人がいるから、と。
「えー、嘘だよ。立向居すごくいい男なのに。ああ、きっと鈍感なんだな。」
「そ、そんなんじゃないですよ!!」
「どうだか〜。」
むしろ、鈍感は貴女だ。
「…あの、なまえ先輩。」
「ん、何?」
「さっき、失恋したって言ってたじゃないですか。」
「うん、」
「それ…誰ですか?」
「内緒。けどヒントは、立向居も知ってる、あたしと同じ高校の人。…あ〜あ、結構脈ありだと思ったんだけどなぁ。」
気になって仕方がなかった。
「……告白、したんですか?」
「ううん、してない。だけど、彼女がいるって言ってたから、きっとあたしなんかじゃダメだって諦めちゃった。」
「そう、なんですか…。」
なら、先輩の好きな人が今の彼女と別れたら、なまえ先輩はその人に好きだと伝えるのだろうか。
脈あり、と思うのであれば、その男も少なからずなまえ先輩に好意を寄せているのではないか。そう思うと、急に胸が苦しくなった。同時に、酷い焦りも感じた。なまえ先輩が、他の誰かのものになってしまう前に…
「あの、先輩!!」
「な、何!?」
「こ、今後の花火大会、俺と行きませんか!?」
「へ?」
意を決して、俺はなまえ先輩を花火大会に誘った。
「た、立向意君、一般的にそれはデートのお誘いと受け取られるものであって…」
鈍感な先輩でも、それに関しては気付いてくれたようだ。これで少しは、俺のことを意識してくれるだろうか。
混乱した流れで断られてしまってはもともこもないので、俺は冷静に、なまえ先輩が弱い不安気な声でねだってみた。
「だ、だめですか?」
「いやいやいや!!全然!!」
……うわぁ。
「ぁ、ありがとうございます!!じゃ、じゃあまた今度メールしますね!!おやすみなさい、なまえ先輩!!」
「お、おやすみ…。」
ど、どうしよう、なんか、これは…
「っ〜////!!」
思ってた以上に嬉しい。
…耳が熱い。ああ、これは完全に真っ赤になってる。
おやすみなさいとは言ったけど、これは暫く眠れそうにない。
*
当日。待ち合わせ場所に早く着いてしまった俺は、意味もなく携帯のディスプレイを眺めて先輩を待っていた。
「立向居?」
一瞬なまえ先輩かと思ったけど、声を聞くかぎり、これは、
「南雲さん!?」
「おう、久しぶり。」
そこには、中学時代部活の先輩だった南雲さんがいた。隣には、桜色の浴衣を着た可愛らしい女の人がいた。
「あ、彼女さんですか?」
「まあな…。お前も女待ってんのかよ?」
「え!?」
何で分かったんですかと問うと、南雲さんは野郎と遊ぶのに浴衣なんか着ねえだろと笑った。
「何、彼女?」
「え、っと…はい。」
…なまえ先輩、嘘ついてすいません。
まあでも、俺としては現実になってくれれば嬉しいんですけど…。
*
「あ、なまえ先輩!」
「ぉ、遅れてごめん!待った!?」
「いえ、全然。」
息を切らしてやって来た先輩は、オレンジで向日葵柄の浴衣を身にまとっていた。
「ん、どうしたの?」
「あ、いえ、その…////」
ここは、さらりと褒めるのがかっこよかったのだろうけど…。
「ゆ、浴衣似合ってます、なまえ先輩!」
「はは、ありがと。立向居もカッコいいよ?」
「っ…////」
いつもと違うなまえ先輩の笑顔に、胸の鼓動が止まらない。
…これじゃあだめだ、一旦落ち着け。
「じゃあ、行きましょうか、先輩。」
短く深呼吸をして、俺は先輩に手を差し出した。
*
「そういえば、さっき南雲さんに会ったんです。」
「晴矢と?」
「はい、彼女さんと一緒に来てました。」
「…そっか。」
すっかり暗くなった空に、次々と花火が咲いては消えて行く。
南雲先輩の名前を出したとたん、なまえ先輩の肩がびくりと揺れた。…あれ、確か南雲さんとなまえ先輩は同じ高校を受けて。
「もしかして、」
「ん?どうかした?」
「いえ、なんでもないです!!」
なまえ先輩の好きだった人って…。
「……。」
そう思うと、俺はまたどうしようもない不安に駆られた。
「あの、先輩…。」
「ん?」
「お願いが、あるんです…。」
なまえ先輩は、今は高校の寮に住んでいて、昔みたいに毎日俺と顔を合わせるのは難しい。
打ち上げられた花火の音が、やけに遠く聞こえた。
「っ、その…来年、俺が先輩と同じ高校に入るまで、誰も好きにならないでいて下さい…。」
「た、立向居?」
「お、俺、なまえ先輩のことが、好きです…。」
なまえ先輩の瞳に、花火の光が反射してキラキラと光っている。
「っ〜!!」
「って、え!?なまえ先輩!?」
「た、立向居あの…」
先輩がいきなり俺に抱き付いてきて、
「あたし、告白されたの初めてがから、今多分すごく情けない顔してるて思うの!!けど、あの、そんな、"今から恋人同士"ってことじゃだめかな?」
「え、」
「毎日会えないからって、飽きちゃうとか、めんどくさいとか、絶対思わないから!!」
「…っ、先輩、」
可愛いすぎます…。
この時の彼女の腕の感覚を、俺はずっと忘れない。
とおくの花火
あんなにも大きく輝いてる。
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