*学校設定ごっちゃ
「お前さあ、花火大会とか行くわけ?」
「うーん、検討中。」
「へー、そ。」
「晴矢は?」
「彼女と行く。」
「彼女…ふーん、そっか。」
正直、驚いた。だって、晴矢に彼女がいるだなんて知らなかった。
「あれ?いつから付き合ってんだっけ。」
さも知っていたかのような素振りで聞き返す。
「あー、春から。」
「じゃあ、花見も一緒行った?」
「まあな。」
衝撃だった。お花見も一緒にってことは、つまりは高校入学後すぐじゃん。
「……そういやあたし、今年花見行きそびれたわ。」
平静を装ってはいたけど、頭の中はかなりの混乱状態にあった。心臓がどくどくと脈打ち、喉が酷く締め付けられる。
「うわ、次古典じゃんかよ。」
「あ、うん…そうだね。」
黒板の文字も先生の言葉も、ほとんど頭に入らなかったので、授業の後半からは居眠りをしてしまった。南雲晴矢に付き合ってる女の子がいる。居眠りから覚めたあたしには、その事実は何故か夢の出来事であったかのように思えた。ぷかぷかと、まるで波に揺れるクラゲの如く、あたしの胸の中という真っ暗な深海を漂っている。こんなに心が苦しいのは、きっと、あたしが彼に好意を寄せていたからだろう。けどそれは儚い恋とも呼べない、本当に小さな感情だった。だからこの現実に、自分がこんなにも動揺するなんて思ってもみなかった。始まりは中学1年生の時。同じクラス、隣の席になったこと。それから仲良くなって、たまたま同じ高校を受験して、たまたま同じクラスになった。
「またよろしくな。」
君が笑ってそう言って、あたしの緊張は一気に解れた。
…高校に入ると、彼氏持ちの友達が急激に増えた。
会ってまだちょっとしか経ってないのに、それで異性に好かれるものなのかな。でも多分、あたしの常識がおかしいのだろう。だって合コンなんて、出会って数時間で人を好きになる場合があるじゃん。
高校に入ったら、素敵な恋愛がしたいって夢見てた。部活の3年の先輩がかっこいい。友達が言った。昨日は彼氏とお好み焼き食って来た。違う友達が言った。一回でいいから泣く程燃える恋がしたい。また別の友達が言った。彼氏の束縛がきつくてホントもう嫌だよ…。駅にいた他校の女の子が言った。そういえば、小学校を卒業した時にも、中学に入ったら恋愛楽しむとか思ってたような気がする。キラキラした少女漫画の主人公に憧れてた。自分もいつか、って思ってた。昨日、高校に入ってから友達になった女の子達と、プリクラを撮った。皆可愛くて、自分だけが酷く場違いに思えた。可愛らしい女子高生。その中に一人混じった不細工が、無理な笑顔を浮かべてた。
…ああ駄目だ、なんかもうネガティブなことしか考えられん。
*
「たちむー聞いてよ〜!あたし失恋しちゃった!」
「え、なまえ先輩って好きな人いたんですか!?」
夜、寮暮らしの私は、後輩である立向居に電話をした。彼は私の家の近所に住んでいて、仲良くなったのは小学校の時、登校班が一緒になったのがきっかけ。年下のくせにやけに大人びた部分があって、可愛いんだけど頼りがいのある子だった。
「立向居は彼女出来た?」
「いえそんな!周りはいっぱいいますけど、俺なんて全然…。」
「えー、嘘だよ。立向居すごくいい男なのに。ああ、きっと鈍感なんだな。」
「そ、そんなんじゃないですよ!!」
「どうだか〜。」
きっと立向居だって時間の問題だ。きっと彼に恋心を抱いている女の子なんて山ほどいる。
「…あの、なまえ先輩。」
「ん、何?」
「さっき、失恋したって言ってたじゃないですか。」
「うん、」
「それ…誰ですか?」
「内緒。けどヒントは、立向居も知ってる、あたしと同じ高校の人。…あ〜あ、結構脈ありだと思ったんだけどなぁ。」
「……告白、したんですか?」
「ううん、してない。だけど、彼女がいるって言ってたから、きっとあたしなんかじゃダメだって諦めちゃった。」
「そう、なんですか…。」
携帯越しに聞こえる立向居の声は、なんだか沈んでいるような、戸惑っているような、そんな感じがした。
「あの、先輩!!」
「な、何!?」
急に大きな声を出したものだから、驚いた。
「こ、今後の花火大会、俺と行きませんか!?」
「へ?」
ちょっと待ってくれ。それは、つまり…?
「た、立向居君、一般的にそれはデートのお誘いと受け取られるものであって…」
「だ、だめですか?」
「いやいやいや!!全然!!」
そ、そんな声でねだられたらアンタ…。
「ぁ、ありがとうございます!!じゃ、じゃあまた今度メールしますね!!おやすみなさい、なまえ先輩!!」
「お、おやすみ…。」
えっと……。
「…うわぁ…。」
なんだか一気に顔が火照って来た。っていうかあたし、デートに誘われたのなんか初めてで、というかそもそも男の子と出かけることじたいが初めてで!!
「ど、どうしよ…」
失恋した悲しみなんか、お山の向こうに飛んでいってしまった。
クラゲな思い
ぷかぷか…心は宙に浮きっぱなし。
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