『合格したの!?やったあ!!おめでとう、シュウ君!!』


電話越しに聞こえた嬉しそうな彼女の声に、僕は腕の中のクッションを強く抱き締めた。


「うん、ありがとうなまえ。」


高校三年の冬。
僕はその日、第一志望の大学を合格したことよりも、それを喜んでくれたなまえに褒めて貰えたことが、嬉しくて仕方なかったことを覚えている。


なまえは僕の二つ上の彼女で、当時は専門学校に通っていた。
後々聞けばその時既に企業から内定をもらっていたらしく、彼女は春から立派な社会人として働くことになった。


『ということは、シュウ君もこっちに上京して来るんだよね。もう住むとことか決まったの?』


「いや、流石にまだだよ。今日合否が分かったばかりなのに、いくらなんでも気が早過ぎ。」

『あー…はは、それもそうだよね。』



なまえと話してると、なんだか落ち着く。
会話の一つ一つが幸せで、心が温かくなる。受験の時もかなり励まされた。


『今度一緒に部屋見に行こうか?やっぱり大学の近くがいいよね?』


遠距離恋愛中の彼女からのお誘い。内容は至ってシンプルなお部屋探し。
それでも別に構わないのだけれど、久々に会うのだからもっと華やかな場所に行ったりして遊びたい。
勿論、彼女と一緒であれば何処でも楽しいのだけれど。

それに僕、本当は……。


「大学の近くもいいんだけど、さ。どちらかと言えば、僕はなまえの家の近くに住みたいな。」

『近く?…あはは!じゃあ隣の部屋とか?寧ろいっそのこと一緒に住んじゃう?』


あ、かかった。


「いいの!?やった!!嬉しいなあ、ありがとうなまえ!!」

『え!?いや、今のはちょっとした…』


冗談だって?
勿論知ってるよ。


「ああ、勿論家賃はちゃんと半分出すから心配しないで?なまえがそう言ってくれてよかったよ。寮もシェアも嫌だけど、いきなり都会で一人暮らしは不安だなあって思ってたんだ。」

『いつになく饒舌なような気が……もしもし、あの…シュウ君?』


申し訳なさそうななまえの声。

けれどここで耳を傾けてはいけない。


「なまえが高校卒業してからはたまにしか会えなかったから、少し寂しかったけど。でもこれからはずっと一緒にいられるなんて…僕、すごく楽しみにしてるね?」


甘えるような声で目に見えない圧力をかければ、それ以上なまえが自分の言葉を冗談と正すことはしなかった。







3月7日
さくらさく





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↑違うお話↓温度差激
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なんだろう、これは夢かな?

だって私はお風呂をあがってちゃんと寝たはずだし、知らない少年に夜這いされる覚えなんかないし。

現実味のない光景に、私はぼんやりと考えていた。


するすると、私の体を確かめるようにして彼が手を動かす。
その手つきがなんだか少し厭らしくて、年下の少年相手にあらぬ感情を抱いてしまった。それを知ってか知らずか、彼はクスリと笑って私の名前を呼んだ。


「なまえ。」


近付く顔彼の顔、深く黒い瞳に吸い込まれそうになる。


「なまえ、なまえ…。」


ひたり。意外にも大きな両手が、私の頬を包み込んだ。
驚いたのと同時その手の冷たさに恐怖を抱いた。
すると、ズシ、と。急に私に跨る彼の体が急に重く感じられた。お腹が押しつぶされそうな程苦しくて、私は思わず「うっ、」と唸り声を上げてしまった。


「くっ、ぅ…。」


なにこれ、すごく苦しい。


「ねえなまえ、僕の目を見て?」


言われた通りに彼の目を見れば、彼の愛くるしい大きな黒瞳は闇に染まっていた。辛うじて月の光が映り込んでいるものの、それは本当に映っているだけだ。その瞳の奥で、真っ暗で真っ黒な感情が渦巻いているのが分かった。
彼に対する恐怖心は益々強くなり、私は目を瞑って頬にある彼の手を離そうとした。
しかし不思議なことに、冷たい彼の両手はまるで固い氷のように動くことはなかったのだ。

私は徐々に、この得体の知れない相手に触られているということが恐ろしくて堪らなくなってきた。
まるで、触れている部分から命を吸い取られているんじゃないかという錯覚に陥った。


「やめっ、放して…!!」

「はなして?なまえ、何を言ってるの?」


彼は暗い瞳のまま、訳が分からないといったふうに笑った。


「っ…!?」


手が首を包む。ゆるゆると、それは確実に内側へと力を込めていた。

やだ、殺される!!

未だかつて味わったことのない恐怖に、目から涙が零れた。

嫌だ嫌だ嫌だ嫌嫌嫌!!やめて放して離れて消えて助けて!!!!

震える私に、彼は心底不思議そうな顔で首を傾げた。


「ねえ、どうして泣いてるんだい。」


ああ、駄目だこの子、頭おかしい。


「酷いよ、酷い。」


酷いのは貴方でしょう?
悪い夢なら早く覚めて!!


「なまえ……。」


掌と同じ、冷たい唇が私の額に落ちた。


ああ、目蓋が重い。


そうか、夢が覚めるんだ。



そう信じて、私は意識を手放した。





「やっと一緒になれたね?」









やっと死んでくれたね?



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