「久しぶりの白恋中だよー?楽しみだねアツヤ!!」

『ったく浮かれすぎだっての。』


遠目に見えるは愛し懐かしの木造校舎。
北海道に戻って来たのはつい先日のことで、この通学路を通るのも久々だ。


…FFIが終わってから、もう10年も経つ。
あれから僕はごく普通に中学高校を卒業し、勉強もそこそこにプロリーグへと入団した。

吹雪なまえ24歳独身。

例え甘いマスクで人気を集めていようとも、こういう事情なので彼女は0!!
好きな子がいるという嘘一点張りでここまで過ごしてきた。
と、それまで東京で活躍していた僕が何故こうして北海道に戻って来たのかというと、それはズバリ白恋中サッカー部のコーチを就任することになったから。


「どんな子がいるのかなぁ、やっぱりまだ女の子も合同でやってるのかな?」

『さあな、だとしたらまた大変なんじゃねえのなまえサン?』

「他人事のように言わないでよ、これでも結構困ってるんだよ?」

『どーだか。』


第三者からみれば、僕は独り言を呟きながら歩いている変な人にしか見えないのだろうけど、今は周りに人がいないから自由にアツヤと話すことができる。


『それより、なまえ…。』

「うん、分かってる。"僕"が卒業した白恋だ、フィフスセクターに目をつけられてる可能性は大きい。ちゃんと目を見張ってるよ。」


僕が白恋中サッカー部のコーチを引き受けた第一の理由。
それはここ1、2年から中学サッカーの試合の采配を課すようになったサッカー管理組織、フィフスセクターが大いに関係していた。



数日前、数年ぶりに久遠監督に電話をもらった。

いきなりのことだったから何事かと思ったけど、僕は彼の電話が嬉しかった。

レジスタンス。

僕は喜んでその話に乗った。


「とりあえずお土産は東京ばななでよかったのかな?」

『今更言っても遅えだろ…?』

「ん、どうかしたの?」


懐かしの通学路を、僕はあえて徒歩で歩いていた。

その途中、僕の視界に飛び込んで来たのは一つのサッカーボールと、それを囲む数人の少年達だった。


「雪村、お前どこ蹴ってんだよ!?」

「何だよ、あれくらいとれて当然だろ!」

「サッカーはチームプレイなんだぞ!?」

「じゃあお前等が俺に合わろよ!」


うわあ…あの子頑固で強気で自己中なところ、アツヤにそっくりだねえ。
そう言えば、アツヤはそうかぁ?と不機嫌そうな声を出した。

こうして僕と体を共有するうち、アツヤの精神年齢も成長しているようだった。

そうこうしているうちに、練習をしていたサッカー少年達はあの子を置いてどこかへ行ってしまった。

一人残った彼は憤りをぶつけるように、乱暴にボールを蹴っていた。


「声かけてみるね。」

『勝手にどうぞ。』


中学生、だよね。よく見ればあのジャージ見覚えがあるし、ひょっとしたら白恋中サッカー部の子かもしれない。


「君!」


深い藍色の髪、たれ目がちだけど野生動物のような鋭さを持った瞳。


「?…誰だよ、アンタ。」


僕が…私がそこで出会ったのは、雪村豹牙君という人間だった。




*




彼はなかなかの才能の持ち主だった。
僕の手助けもあってか、最近ではチームプレーも出来るようになっている。
それに何より、雪村は努力家だった。

キャラバンで全国を回ってた時の僕とは違って、ただがむしゃらに完璧な強さを求めるのではなく、サッカーが好きという純粋な光を追って練習に励んでいた。



僕はよくこうして休日を利用して雪村の練習に付き合ってあげているのだが、これが僕としても中々楽しい。


「あ、雪村やっぱり僕のこと知らなかったんだ。」


休憩中、何気なくそんな話をした。


「はい…その、小さい頃からサッカーが好きなわけじゃなかったし。」


雪村が僕、吹雪なまえのことを知ったのはつい最近のけとらしい。なんでもクラスの友人が話しているのを聞いたそうだ。


やっぱりサッカー好きっ子じゃないと、一選手の顔と名前覚えられないよねぇ。
僕も"前"はそうだったし。

キャプテンとかなら国民的知名度なんだけど…今度何かCMでも出てみようかな。


『今更かよ、あれだけ雑誌の取材断っといて。』


呆れ気味なアツヤの声が聞こえた。
だ、だってサッカー関係無いファッション雑誌なんだよ?特にお金には困ってないし、彼女もいない…というかそもそも僕は根は女の子のままなんだから無理でしょ!?
恋愛関係の質問やら何やらされてボロでも出ちゃったらどうするの!!
ネットで騒がれちゃうよ!?
吹雪なまえ男色家説!!


「ただのOBかと思ってた。」

「はは、そっかぁ。僕ももっと頑張んないとなあ。」


そう言って頬をかけば、雪村は複雑そうな顔でこちらを見上げていた。

不思議に思って首をかしげれば、雪村はあの、と口を開いた。


「その…プロに戻ったら、先輩は東京に帰っちゃうんですか?」


少しうつむきがちに放たれたその言葉に、不覚にも…その…ときめいた。


「そ、それはそうだけど今のところ帰る予定はないよ!?ほら、今ふふすセクター?だとかいろいろ大変じゃない!!白恋中も順調に地区大会を勝ち進んでるんだし、それにまだまだ雪村に教えたいこともいっぱいあるんだから。」


誤解の無いように言っておくけど、勿論サッカー関連で。


「本当ですか?」

「うん。」


雪村が表情を一変させて僕を見上げた。

正直三期のわた……FFI時の僕は身長が低いことを悩んでいたりもしたんだけど、無事伸びてくれてよかったと実感した。


「そういえば雪村、その、すごく今更なんだけど…。」

「ホーリーロードのことですか?」

「うん…。」


白恋中は雷門の革命にならい、フィフスセクターの勝敗指示に逆らい続けている。


「ほら、よくわからないけど、内申書がどうこう…大丈夫かなって。」


もしかしたら、僕のしていることは彼等の将来を妨げているのではないかと心配になってきたのだ。

しかし雪村は暗い表情なんて一切しないで、


「大丈夫ですよ。それに、革命が成功したらもう関係ないじゃないですか。だからそれまで、指導よろしくお願いしますねなまえ先輩!」

「ゆ、雪村ぁ…。」


なんて、なんていい子なんだ君は。


「僕、例えお金に困ったりしても絶対、雪村達を置いてどっか行ったりしないからね!?」

「うわ、ちょ、なまえ先輩っ!?」


ぎゅうっと雪村の頭を抱き締める。

雪村はしばしばたばたと抵抗していたけれど、急に大人しくなって、「約束ですよ?」と拗ねた様に言った。


ああ、やっぱり…可愛いじゃないかこの子。







やくそくしました

この後に続く悲劇を、私はまだ知らない。






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