*不快になる可能性注意
後味の悪さったらない









二期の頃から大好きで、ファイアからオーガまで全部持ってた。

無印が好きだったから、アニズマの世界編が終わった時、すごくショックだった。

田舎暮らしだったので、私の住んでいる地域では夕方のアニメなんてあのアンパン頭の国民的ヒーローぐらいのもの。
だからアニメはほとんどパソコンの動画サイトで見ていた。勉強も忙しくなってきたし、GOに変わってからというもの、専らアニメは見ていなかった。

しかしジャンルそのものを飽きることはなく、私は通販で購入したスマートな本に囲まれてそれなりにオタ充した日々を送っていた。
これからも無印キャラへの愛を一生貫くものだと、そう思っていた。



しかし、それは違ったのだ。


……映画。

フサおを通り越したもさおや、エドガー化した風丸さんを拝むがために、私は映画を見たのだ。

たが、映画を見終わった後の心境といったらなかった。


…イナゴやべぇ。
軽視してた。

イケメンばっかりだしスタンドみたいなの出すしって、無印とはまったく別物なのだろいと口を尖らせていた私をぶん殴りたい。

早速私は黒い方のソフトを手に、レジへと向かった。

そして今夜もまた、おっといけねえ、雨宮レベル上げしてたらいつの間にか日跨いでんじゃねえか。とかなんとか思いつつ眠りにつくことになるのだ。






*






思い瞼を開て視界に映ったのは、見慣れた我が家の天井ではなかった。



茶色い木目などは一切無く、グレーっぽい感じのつるりとした天井がそこにはあった。目が覚めたら、私は違う場所にいた。


…なんだまだ夢か。

結構夢は見る方なんだけど今日は随分と感覚がリアルだ、今までにないくらい。

口元を覆う呼吸器、腕から伸びる管とそれに繋がる傍らの点滴。ここは病院なのだろうか、にしては天井が黒すぎる気がする。まあ夢なんだから仕方ないか。

のろのろと上半身を起こし、未だぼやける頭でそんなことを考えていると、急に部屋の扉が開いた。


視線をそちらへ向けると、扉を開けたであろう人物と目が合った。


男の子だった。

テレビの中で歌っててもおかしくないようなイケメン。

しかし私はそんな輝かしい顔よりも、彼の髪に目が行ってしまった。


……白髪だ。
しかも半分から下は薄ら青みがかって…というかこの髪型すっごい見たことあるは、主に画面とか紙媒体越しにだけど。

濃い赤茶色の瞳は、私を見て開かれていた。


うん、彼の来ている白いユニフォームも見覚えがある。私はなんだかよくわからない興奮が喉を熱くさせるのを、抑えるように、ぎゅっとシーツを握った。
その布地の感覚に、喜びも束の間、私は酷く困惑した。

…リアル、すぎる。



「っ、なまえ…!!」



室内に響いた、喜びと焦燥を含んだ声。呼ばれたのは、確かに私の名前だった。

早足で近付いて来た彼は、強く私の体を抱き締めた。


「ああ、よかった…。」


耳元から聞こえるええ声。
うっほやべぇっ、ちょ、CD持ってます!!つかこの状況マジ天国!!…とか当然考えたけど。

とりあえず。


「あの…貴方、誰ですか?」

一応確認は大事だよね、うん。

私の言葉を聞いて、彼は私から体を離した。それから酷く驚いた顔をして、私の頬に触れたのだ。

ちょ、やめて、そんなイケメンフェイスでまじまじと見つめないでっ!!
…と、照れから私はその手を払ってしまった。


「もしかして…何も、覚えていないのか?」


私はなんかもう頭が混乱して、ただ首を縦に何度も頷いた。

顔を見ないように俯いていたるため相手方の表情は見えなかったが、彼は私の答えに対し残念というか、絶望にも似た感情を抱いていることが、視界の端に映る震える拳から見てとれた。


「貴方は、私を知ってるんですか?私の名前は?」


流れ的に大体予想はついているが、確認のために聞いてみた。


「君の名前はナマエなまえ…俺は、白竜だ。なまえ。」

「はく、りゅう…。」



や、やっぱり!!


この上なく嬉しいんだけど…どうしてこうなったんだろう。




普段通り眠りについた私は、目が覚めるとこんなことになっていた。
え、トリップ?
トリップなの?というか私とこの御方はどのような関係なの??


「なまえ、どうかしたのか?」

「あ、いや…白竜、さん。この施設はなんですか?」


すると彼は目を細め、私の頭を撫でた…なんという幸せ。


「ここはゴッドエデン、サッカー管理組織フィフスセクターの管理下にある島だ。」


やっぱり間違いない、私は…擬いもない楽園にいます。

地獄って、ノンノン京ちゃんどこが地獄やねん。


「すまない…今は休んでいろ。急がなくて、いいからな。」

「うん…。」


多分、私が記憶を失ったことがショックだったんだろう(まあ設定的な感じですが)。

白竜は儚げに笑うと、部屋を出て行った。




それから何分かして、とある人物が私のいるこの部屋を訪ねてくれた。

…シュウだ。


「やあ、意外と元気そうだね。」


彼は和かな笑顔を浮かべると、椅子ではなくベッドサイドへと腰を下ろした。


うわぁどうしよ!!
シュウだ!!どうしよ!!


「一緒に天馬の特訓に付き合ってたらいきなり倒れちゃうからさ、びっくりしちゃった。」

「えっと、ごめんね。」


なるほど、時間軸は映画真っ最中か。


「天馬も心配してたよ?」


シュウが薄く笑った。

その笑みに違和感を覚えたけど、私は気のせいだと思って笑い返した。


「もう大丈夫だから、心配ないよ。」


私がそう返すと、シュウは目を細めた。笑ってはいるけど、その瞳はまるで私を敵視しているかのように暗かった。
嫌な予感が私の中膨らみはじめる、もしかして、私は彼に嫌われているのではないかと。

でも一緒に天馬の練習を見るくらいだし…。




「"天馬"って誰って、聞かないんだね?」

「え?」



なんだろう、シュウは一体何を言っているのだろう。

私が不安を抱き始めたの対称的に、シュウはクスクスと笑いはじめた。










「こっちの世界はどう?トリッパーさん。」

「なっ…。」



待って、どういうこと?
シュウは今何て言った!?



「ああ、図星?やっぱりそうだったんだ。」

「ど…どうしてなの?」



やだ、このシュウは私の知ってるシュウじゃない…。

彼はまたあの可愛らしい笑みを浮かべると、あのね?と口を開いた。



「まだ来てないんだよ、雷門。」

「え?」

「もっと言えば、僕はここに来てまだ一週間だ。"なまえ"が松風天馬を知ってるはずがないんだよ?」



待ってよ、じゃあなんでシュウは…。


私が得体の知れない恐怖に身を固めていると、彼は見透かしたように私の顔を覗き込んだ。



「どうして僕が"知ってる"の?って顔してるね。」



その顔はまるで、マジックのトリックを明かす子供のようだった。



「もうずうっと…それこそ数えきれない位昔。」



その次の言葉に、私は絶句した。



「成り代わりって、知ってるよね?」

「嘘…。」



知ってる。夢小説だって大好きだったんだ、勿論知ってる。



「貴方、誰なの?」

「僕はシュウだよ。」

「っ、そうじゃなくて!!」



怖い、怖い怖い怖い!!

なんなの、なんなのこの人…こんなの、私が知ってるトリップじゃない!!



「覚えてない。」

「は?」

「言ったでしょ?僕が僕として生まれたのは気が遠くなる程昔の話。しかも君も知っての通り、僕は死んでる。忘れちゃったよ、自分が誰かなんて。歳も性別も、"自分"に関することはすっぽりと抜け落ちてしまったんだ。だから僕は"シュウ"そのものだ。」



彼の顔から、笑顔が消えた。



「つまり、僕は確かに"この世界"の人間なんだよ。君とは違ってね。」



心臓を握られたような圧迫感。このまま潰れてしまうんじゃないかってくらい苦しい。



「ま、待ってよ、じゃあ"この子"は!?」

「なまえだよ。」



その名前が、私の頭の中をぐるぐると回って、ガンガンと掻き乱す。だって、ゴッドエデンに女の子なんていないはず…なんか、もう訳分かんないよ…。



「酷いよねえ…。僕、なまえのことが好きだったのにさぁ。君がなまえの居場所を奪っちゃったんだもん。」

「わ…私っ…。」



どうしよう、こんな思いするくらいなら、現実の世界の方がよっぽどマシだった。



「あ、そうだ。ねえ、白竜に"なまえ"の中身は偽物なんだよって言ったら、どんな反応するかな?」

「だ、駄目、やめて!!」



それじゃあ嫌われフラグ一直線だ。大好きなキャラに嫌われる日々を過ごすなんて、絶対にイヤだ。



「…分かったよ。」



飄々とした態度。けれど、彼の目はやっぱり笑っていなかった。



「じゃあ、今から僕の言うこと聞いてね?」

「……。」

「偽物だけど、なまえを白竜に取られちゃうよりマシかもね。」



そう言って、彼は私にキスをした。







なん


そうとも知らずにはしゃいじゃって、馬鹿みたいだね!!

やっぱり君、面白いよ。





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