「どうしようどうしようどうしよう!!!!」



カノン君から届いた紙を手に、僕…いや、私は室内をぐるぐるしていた。

アツヤが落ち着けだの深呼吸だの言ってるけど、思考が乱れていて上手く聞き取れない。

どうしよ、まだ集合時間まで1時間もある、待てない!!
ヒロト君、ヒロト君は!?
あ、駄目だ、彼は一番最後に集合場所にやって来るんだっけ!?原作沿いって不便っ!!



『なまえ!!』

「うわぁ!?…あ、アツヤ?君よく僕がこんなにテンパってるのに話すことできたね。」

『気合いだ気合い!!つーかまず落ち着け、な?』

「うー…。」



そんなこと言ったって、この熱く煮えたぎる胸の熱情をどうすればいいかなんて!!



「なんか受験の合格発表思い出す…。」



ああ駄目だ、落ち着かない。



「アツヤアツヤ、聞いてよ。」

『なんだ?』

「……やっぱりいいや。」

『はあ!?なんだよそれ気になるじゃねえか!!』

「いや、だってこれ聞いちゃったらアツヤ、実の兄に対して心的ストレス障害おかしかねないから。」

『……。』



まさかだった。まさか王牙学園を生で見れるなんて思ってなかった。てっきりこのまま大会を進んで、ガルシルド倒したら世界一まっしぐらって展開かとばかり…。



「あぅ…爆発するっ!!」



どうやらアツヤは僕を心配することをやめたようだ。
うん、それでいいよアツヤ、こんな変態相手にしないで!






*






『それでは、皆さん準備はいいですね!?』

「「待って!!」」



キラード博士の言葉に、僕とヒロト君の声が被った。

あんなに時間があったのに、いざ行くとなるとどこか不備があるのではないかと心配になってしまう。



「ヒロトさんなまえさん!、今更何言って…」

「だってさ虎丸君!フットボールフロンティアの時の円堂君に会えるんだよ!?その時代の円堂君はグランを知らないし、ここで悪い印象を与えてしまったりでもしたら終わりだ。というか、やっぱり五分の四がジャパンジャージとか正直面白くない、これじゃあフィディオ君が目立ちすぎる。」

「グラン?」

「追及しちゃだめだよ飛鷹君」

「吹雪さん…ウス。」



ヒロト君をフォローするため、少し暗めの笑顔で飛鷹君の肩を叩けば、彼は短く返事をした。



「ヒロトさんは髪色で充分目立つと思いますけど?」

「いや、やっぱり駄目だ、オレ着替えるついでにシャワー浴びてくるっ!!」

『えっ、ちょっと!?』

「ごめんキラード博士、僕も白恋ジャージ持ってるから着替えてくるよ。それからやっぱりマフラー持ってくるねっ!!」

『ふ、吹雪さんまで!?』



髪形を直したり、顔をチェックしたり。ライオコット島のイタリア街で買った香水をつけたり何だり…。

結局、僕達が過去へと飛んだのは、それから20分後のことだった。






「風に、なろうよ!白恋中の吹雪なまえだ!」



心なしか、バックから狼の遠吠えが…決まった、完璧だよ。



それから何を話したのか、正直ほんのりとしか覚えてない。

気が付いたら、僕はフィールドに立っていた。



『へー、あいつらが王牙学園か。なまえ、気張ってこーぜ!?』

「ぇ…あ、うん。」

『って、なんだよその返事!?さっきのテンションどこ行った!!』

「うん…なんかハイになりすぎちゃったみたいで、一周ぐるっとして逆にダウンした。」

『なまえ、お前倒れんじゃねえぞ!?』

「分かってるって…。」



ああ、ミストレちゃんの肌が眩しい。触ったらさぞかしすべすべで気持ちいいんだろうな…。
あ!、っていうかエスカバの生デスレイン見逃しちゃったよ!!ぐおぉ…おのれ原作ぅ…。
はっ!!な、あちらにおわすお方は夢にまで見たバダップ様ではござらぬかあぁっ!!



「お前達。誰が入ってこようとこちらは構わない。戦闘を続行する」



はぐあぁっ!!喋ったぁ!!!!いい声だよぉ……。

その感動は、沖縄で初めて南雲君に会った時に味わったものに酷似していた。
南雲君、今何してるんだろ。亜風炉君達にもまた会いたいなぁ。



『……なまえ、』

「うん、分かってる。」



アツヤの声に、私は平静を取り戻した。

そう、例え相手が相手でも、ここで醜態を晒すわけにはいかない。
カノン君の思いを、無駄にはできない。



「行こう、アツヤ。」



マフラーの代わりに、私はユニフォームの胸元をぎゅっと握り締めた。






*






「皆さん、本っ当にありがとうございましたっ!!」



カノン君はそう言って深々と頭を下げた。

僕達が帰って来たのは、僕がカノン君の手紙に気付く少し前の時間帯だった。



「いいんだよ、僕等も結構楽しかったしね。」



そう笑えば、皆も頷いてくれた。



……と、カノン君にお別れをしたのは約十数時間前のことなのだが。



「どうしようアツヤ、興奮が冷め止まなくて眠れない。」

『知るか!!羊でも数えとけ!!』

「ああああ〜、明日結構早い時間から朝練なのにぃ!!」

『いくぞほら!いっぴぃき、にぃひき!!』

「そんな荒々しく数えないでよぉ…。」



結局、僕が眠りについたのは、日付が変わって四時間が経った頃だった。






*






「う〜…。」

「なまえ、大丈夫か?」



朝、やっぱりというかなんというか、調子は正に絶不調だった。

海辺のランニング途中で、染岡君が心配そうに顔を覗いてきた。



「休んでた方がいいんじゃねえのか?」

「ううん、平気。付き合わせちゃうのも悪いから、先行っててよ。」

「けどよ、」

「辛くなったら歩くから、大丈夫だよ。」

「そうか?朝飯前には間に合わせろよ?」

「朝飯前って、まだ大分時間あるじゃない。」



染岡君の背が離れていく様を、僕は霞む視界でとらえていた。



「……はぁ。」



大丈夫とは言ったものの、やっぱり辛い。
というか、眠い。身体がもう限界だと叫んでいた。



『なまえ、いいからちょっと休んどけって。』

「……うん。」



結局、一時間ちょっとしか寝てないのか。

……5分だけ。

そう思い、僕は白い砂の上に寝そべった。






*






なんだか身体がふわふわするなぁ。

そんなことを思いながら、僕は目を覚ました。


まず目に入ったのは、サッカーボールを小脇に抱えたキャプテンの横顔だった。



「あ、起きたか。」



僕は誰かに背負われていた。がっしりした背中だから、多分染岡君。



「キャプ、テン?…そっか、僕あのまま…今何時?」

「9時だぞ?」



嘘、練習始まってるじゃん。



「…また皆に迷惑かけちゃったね。」



僕は染岡君の背中を掴む手に少し力を入れた。



「気にすんなって!なまえが天然なのは、皆知ってっからさ。」



天然て…皆僕のことどう思ってるんだ。というか、よく考えてみれば監督にマジ説教された記憶が無いじゃないか。駄目でしょうがクドカン、ちゃんと叱らないと。



「あ、ちゃあんと飯はとってあっから、心配すんなよな。」

「うん、ありがとうキャプテン。」



皆優しいなあ。
僕、今本当に幸せだよ。



「えへへ。染岡君もありがとうね?」



冗談混じりに、僕は染岡君の背中にぴったりと寄り添った。
ああ、このジャージ越しでも分かる筋肉質な身体…。男として羨ましいのと同時、ちょっぴりときめいちゃうよ…。



「染岡?」



ふと、僕を背負った彼は声を発した。あれ、なんかいつもより声が高いような?
キャプテンも何故か僕を不思議そうに見てるし…。



「吹雪なまえ、俺は染岡竜吾ではない。」

「えぇ、染岡君何言って……え?」



ふと、視界にサラリと映った髪。


……まさか。



「あ、そっか、なまえは朝飯のときいなかったから知らないんだよな。」



キャプテンが申し訳なさそうに頬をかく。



「ほら、宿舎にでっかいパソコンみたいなのあるだろ?昨日ちょっと使ってみたんだ。それで…」


それって、もしかして引き抜、



「久しぶりだな。と言っても、君達からしてみれば半日ぶり、か。…今日からイナズマジャパンに世話になることになった。」



僕は恐る恐る視線を上へとずらした。

きらきらとした白銀の髪、どこか艶めかしい褐色のうなじ。

キャプテンが何やら彼の紹介をしているが、一切頭に入らない。


だって、僕っ…私、今この人におんぶされてっ…!!



「吹雪なまえ…これから宜しく頼む。」



神様、ありがとうございます。



「……なまえでいいよ、バダップ君…。」







Game Setup
―ゲーム設定―

引き抜きシステム、だとっ!?





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