「遅かったじゃないかなまえ!僕もう淋しくて死んじゃうかと思った。」
「なにが淋しくて死んじゃうだ。バリバリ元気じゃんかよ!」

亜風炉が病院に入院したのは、数日前。そしてあたしが奴の顔を見たのは今日。

「別に平良達が来てくれたんだからいいでしょ?つーか大体、亜風炉は人気があるから、"淋しい状況"なんてあり得ないはずです。」
「まあ、それはそうだけどね?」
「否定しないんだね。」
「当然だよ、なんたって僕は世界一美しいんだから。」
「相変わらずのナルシ加減だね。」
「もちろん、なまえだって可愛いよ?」
「……はいはい。」

…何故私は、この男の彼女なんてやっているのだろう。あれ、やばい。ちょっとリアルに思い出せないぞ?

「なまえ、」
「…ちょっと待って、今必死に思い出そうと。」
「何を?」
「アンタとあたしが付き合ってる原因。」
「それなら、なまえが僕に好きですって言ったんじゃないか。」
「…そうだっけ?」

にこにこと満面の笑みを浮かべる亜風炉。ちくしょう、カッコいいから逆に頭くる。過去のあたしはきっとものすごい面食いだったに違いないな。人は中身だぞ、過去の自分よ…。

「…で、何よ。」
「はい。」

そう言って渡されたのは、真っ赤な林檎と果物ナイフ。

「…剥いて?」
「ぐっ、」

亜風炉がまたベッドに座ったまま、上目遣いでねだるもんだから…

「…しょうがないなあ。」
「ふふ、そう言ってくれると思ってたよ。あ、できればウサギがいいな?」

ったく、調子いいんだから…。

「…ねぇ、亜風炉。」
「なに、なまえ?」
「なんでこんなことしたの?」

いくら調子がいいといっても、実際彼の足には痛々しい包帯が巻かれている。

「部活中、ちょっと目を離したすきに、ふらっとどっかに行っちゃって…。休憩時間で見たテレビにアンタが映ってた時、すごくおどろいたんだから。」

恥ずかしいながらも本心を告げると、亜風炉は何故かキラキラとした瞳で私を見た。

「見ててくれたんだ!」
「え、そりゃあ、まあ…。」「ねぇ僕、頑張ってた!?」
「そうだね。」

まあ一応、亜風炉だって確かに地球を救った一員なわけだし…それに、こんな大怪我までして。

「…亜風炉、偉いね。」
「ふふ♪」

頭を垂れ、撫でてと催促してきたので、私はリンゴを剥いて汚れた手をお手拭きで拭いてから、亜風炉の頭を撫でてやった。
彼の金糸の髪に、さらさらと指が滑った。

「そっか、テレビかぁ。きっとあの瞬間は全世界の人々が画面越しに羽ばたく僕に釘付けだったろうね。」

あ、また調子こきはじめた。

「そーですね。でもあたしは亜風炉よりもあのダイヤモンドダストのキャプテンの方がカッコいいと思ったけど。」
「ちょ、嘘つかないでよなまえ!」
「う、そ、じゃ、な、い!悪かったわね相変わらずの面食いで。なんかクールっぽくてかっこよさげじゃん。」
「あんな中二病のどこがいいの!?酷いよなまえ、浮気!?」

亜風炉はそれまで自分の頭にあったあたしの腕を引き、強く握ると、やけに真剣な眼差しで見つめてきた。
……つか、中二病ならアンタも負けてないかんね?というか、話の本筋ずれてる。

あたしは自由のきくもう片方の手で、彼の口にウサギカットのリンゴを咥えさせた。

「ぅむ!?」
「あたしの質問、まだ答えてもらってないよ。どうしてこんな」
「ら、らって(だって)…」

亜風炉はリンゴを一口噛って手に取ると、


「だって、なまえに褒めてほしかったんだ。」


そう言うと彼は、食べかけのリンゴをあたしの唇にくっつけた。






君に頭を撫でてもらうのが、何より好き。




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