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朝。
目が覚めると、何やら女の香水の匂いがした。
ナマエでないことは確かだが、一体……。
「……ん?」
そこでふと、俺は身体の妙な異変に気が付いた。
あの温かな感覚が、前後に一つずつ。
「一つ、ずつ…?」
訳が分からないまま、俺は腕の中にいる人物を見た。
そいつは長い深緑の髪をシーツに流し、俺に抱き付いたままぐっすりと寝ていた。
香水の香りの原因はおそらくこいつだろう。つーことは、背中にくっついてんのがナマエか…。
寝起きの頭でそんなことを思いながら再び目を閉じようとしたのだが、よく考えてみれば呑気に二度寝をしてる場合じゃない。
……誰だこの女?
顔を確認する限り、ここの使用人でないことは確かだ。
よく見るとナマエに負けない位綺麗な顔立ちをしている。
どうしていいか分からず、とりあえずナマエを起こそうとしたところ、腕の中にいたそいつが身動いた。
「んぅ……。」
女の伏せられていた長い睫毛が震える。
ヤバイ、起きた。
とろんとした紫の瞳に見上げられ、俺の心臓は二重の意味で大きく跳ねた。
しかしそいつは俺の顔を認識すると、その綺麗な顔を歪めた。
「……誰だよお前。」
「いや、こっちの台詞だっつの。」
あっちも徐々に意識がはっきりしてきたのか、もの凄い勢いで俺から離れた。
そしてさっきの寝顔からは想像出来ない程に眼光を尖らせ、明らかな敵意と軽蔑を含んだ目で俺を見た。
「テメー……オレがいくら可愛いからって、寝込みを襲うとはいい度胸じゃないか。」
「いや誤解だから!」
誰かこの状況をどうにかしてくれ。
!、ああ、そうか!!
「おい…おい、ナマエっ!」
後ろで寝ていたナマエの肩を揺さ振る。
ナマエは何とか意識を取り戻したものの…。
「……あと15分。」
15分って、そんだけ待ってたら俺死ぬって!!
「頼むから今!今すぐ起きろ!!」
「ん〜…何よエスカバぁ…。」
もぞもぞと起き上がったナマエは、俺を睨む深緑髪の女を見た。
「……あ。ミストレ…。」
「おはようナマエ。ちょっと、これどういうこと?」
「どういうことって…何がよ。」
「どうしてオレ以外の男を寝台に上げてるの!!しかもこいつ、ホムンクルスじゃないか!!」
女は俺を指差して叫んだ。
……ん?
今こいつ何つった?
オレ以外の男…?
あ、こいつよく見たら男じゃねーか。
「あぁもう、朝から大きな声出さないで頂戴。とりあえず一旦顔を洗うべきだわ…ミストレはシャワー。」
香水臭い。ナマエが顔を顰めた。
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