それから、ナマエは俺に邸の中を案内した。


入ってはならない部屋もいくつかあるようで、それらの扉は他とは違う造りになっていた。


部屋からは自由に出て構わないと言われたものの、中々この部屋から出る気は起きない。
当然というか、邸内にいる召使は全員吸血鬼。害は出さないことは知っているが、なんだか居心地が悪い。



あの時に見た狼の姿は無く、ナマエに聞いたところ、あいつはやはり人狼の一族だった。

吸血鬼と人狼の因果関係は、何年か前に代表者同士の話し合いで解決したと聞いていたが、実際頭の硬い年老いた奴等は納得してはいないらしい。




部屋に戻る途中、ナマエは無駄にデカい書庫に立ち寄り、俺に数冊の分厚い本を渡した。

目次を見てみれば、なにやら礼儀作法や世間の一般常識、テーブルマナーなど、貴族の子供が幼い時期から帝王学を学ぶための本だった。



「ぜぇんぶきちんとこなせないようじゃ、パーティーにも連れて行けないからね。」

「パーティー?」



俺は首を傾げた。

パーティーって、やっぱ吸血鬼のだろ?俺を連れて行って大丈夫なのかよ?



俺がそう聞く間も与えず、ナマエはまた違う本棚の間へと進んで行ってしまった。



「あと、勉強に疲れたらこれでも読むといいわ。」



そう言って俺が持ってる数冊の本の上に更にドサリと本を置いた。



こんだけ本ばっかり読んでたら、視力が低下しそうだな。






*






少し気になっていたことがあった。

そして今、俺はその問題に直面しているところだった。

吸血鬼も夜は寝るのかとか、そんなのは目の前のナマエを見れば分かり切ったことだ。



「さて、寝るかエスカバ!!」



白い寝間着に身を包んだナマエは、そう言って天蓋の中に潜り込んだ。



寝るかって、まさか、その…。



「…何やってんのよ?」



薄い布越しにナマエが俺を見ている。


やっぱり、一緒に寝るのか?



「いや、俺は、」

「慣れてるから床でいいと?」



却下、と、ナマエは俺を睨んだ。



「エスカバ」



それから、ナマエは急に優しい顔になって俺を呼んだ。



「おいで?」



俺が渋々ベッドに上がると、ナマエはにっこりと笑った。



「えらいえらい。」



そう言われ頭を撫でられる。

犬かよとは思ったが、そういえば俺はこいつのペットなんだっけなと思い出した。



「おやすみなさい。」



布団に入ると、ナマエは器用に俺の身体に寄り添った。

最初こそ戸惑ったものの、次第にその温かな体温が心地よくなっていった。

こうして誰かの温もりに触れながら眠りにつくのは、俺が"ただの"人間だったあの時以来だ。


細い銀糸の髪と背中に、俺はゆっくりと手を伸ばした。






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