二人で食事をするには少し大きめのテーブルには、俺が見たことのない豪華な料理が並んでいた。
グラスに注がれたフルーツジュースも、白く輝く食器も、俺の目には新しかった。
使用人が椅子を引いて着席を促す。
あいつが座ったのを確認してから、俺も席についた。
「……。」
「あら、食べないの?」
「いや、食いてえけど…。」
俺が中々食事に手をつけないのを見て、女は首を傾げた。
しかしその理由がすぐに分かったらしく、女は室内にいた数人の使用人達を部屋から出て行かせると、俺に笑いかけた。
「馬鹿のくせに、そんなに畏まっちゃうなんて、中々可愛いじゃないの。…マナーなら後で教えてあげるわ。どうしても気になるのなら、私の真似をすればいいんじゃない?」
言うないなや、女は手掴みでターキーを投げてよこした。
正直腹はかなり空いていたので、俺は遠慮なしにその肉に噛りついた。
「……旨い。」
「そう、それは良かった。」
やはり昨日まで口にしていた食べ物とは大違いだ。それまでの躊躇いは何処へやら、俺はほとんどナイフを無視して料理を食べ続けた。
ふと視線を感じたので女を見ると、あいつはフォークを指先で遊ばせながら俺を見ていた。
「…むぐ、…らんだよ?」
「ん〜、別にぃ?」
女は相変わらず笑っている。
どうやら気分を害しているわけではないらしい。
「ああ、そういえば、貴方のこと何て呼べばいい?」
「?」
「いつまでも馬鹿だの出来損ないだの言われるのも嫌でしょ?」
確かにその通りだ。
俺は口の中にある食べ物を飲み込み、自らの名前を教えた。
「Esca…。あそこではそう呼ばれてた。」
「そう。エスカ、ねえ……。」
少しの間口に手を添え、何か考えた後、彼女は再び口を開いた。
「じゃあエスカバって呼ぶわ。」
「は?何で…」
「エスバカじゃさすがに可哀想かと思って。」
すました顔でそう言った女に対し、俺の額には青筋が浮かんだ。
「お前、俺のこと一体何だと…!?」
「ペット。」
俺の言葉を遮り、女は眉をひそめた。
「忘れたとは言わせないわ。助けてもらう代わりに私に忠誠を誓ったでしょう?貴方を殺すことなんか簡単なのよ"出来損ない"。」
吸血鬼である女のその言葉と威圧感に、俺は息を飲んだ。
「貴方は私が"飼う"って決めたの。貴方は私の"愛玩動物"であり、同時に"おやつ"、"下僕"でもあるの。お分かり?」
「…まあな。」
生きてたきゃ逆らうなってか?
了承の返事を返すと、女は再びパンをちぎりだした。
「それに、せっかく施設を出れたんでしょう?前と一緒の名前じゃ、何か嫌なことでも思い出すんじゃないかと思って。」
パンを一欠片口に含み、それ飲み込んでから、彼女は可愛らしい口元で弧を書いて上品に笑った。
「私はナマエ。コッチの王族の端くれで、この地域を治めている吸血鬼の一族なの。」
やっぱお嬢様だったのか……そりゃそうだよな。
使用人はいるし、こんな城みてーな邸に住んでるしよ。
「ナマエでいいわ。よろしくね、エスカバ。」
「…ああ。よろしくな。」
まあ、悪くはないと、そう感じた。
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