「興醒めだね、いくら美しいと言ったって男じゃ意味がない。」

「ミストレ、真面目に聞け。」

「はいはい、相変わらず冗談の通じない奴。」


現在進行形で、俺は会場から離れた一室で佐久間次郎という吸血鬼と一緒にいる。バダップや鬼道といった重鎮の直属の部下という立場上、こいつとはまあそれなりに仲良くやってる。


「んで、何が死んだんだって?」


分かってはいたけど、こうした華やかな社交会に仕事関係の複雑で面倒たらしい話は付き物だ。オレがつまらなそうに足を組み直すと、佐久間はある街の記事が書かれた新聞をオレに手渡した。


一昨日のか…街で男が一人殺された。なんだ、よくありふれた話じゃないか。


「これのどこが問題だって言うんだよ。」


大方、こいつを殺した吸血鬼を探して殺せとかいうお達しが来たんだろうと思った。

しかし佐久間は神妙な顔付きのまま、机の上に切り取られた新聞記事を何枚も並べた。

一枚を手に取って見ると、それは先程の記事にあった同じ街で起きた殺人事件の記事だった。
よく見れば、他のものも全て同じような内容だ。殺し方はどこか下層の吸血鬼が狂った際のそれによく似ている。


「…ここ、バダップの管理下にある街だね。」

「ああ。あいつはウチと協定を結んでるからな、問題は早めに解決するのが得策だろ。」


人狼達が同種のみでそれぞれの区画にまとまり、人間とは離れて生活しているのに対し、吸血鬼と人間達の暮らす場所の壁は無いに等しい。

不可侵締結からの形無き和解というか、名のある一族が古くから所持していた領土に人間達の街があることは不思議じゃない。人間に寛容な吸血鬼が、長い年月をかけて数を増し続けてきた彼等に領主として土地を貸してやることは、今はごく当たり前のこととなっていた。

勿論、彼等の持ち主は"王国"の方だ。司法や行政といったことには一切関わらず、領主である吸血鬼はただ土地代を貰うだけ。


しかしそれらとは関係無しに、"吸血鬼が起こした事件による被害が出た場合"に限っては、オレ達粛正者の出番ということになる。


「バダップが王国に貸してる土地は吸血鬼の中でも多い方だし、オレは滅多に新聞なんて読まないからね…。」


被害者は年齢も性別も様々で、見た感じこれといった共通点も見あたらない。
ただ記事の紙の感じからして、これらが全て最近の出来事であることは分かる。佐久間が眉をひそめ、記事の並んだ机を睨んだ。


「よくいる混血と比べても大分薄れてはいるが…被害者には微弱ながらに吸血鬼の血が流れているんだ。」

「ふーん。」


濃度も微弱だからただの人と変わり無いけど、吸血鬼の血が流れてる人間がいないこともない。そういう場合、先祖の誰か一人が吸血鬼だったということだ。


「確証は?」

「吹雪に行かせたんだ。」


事件現場の匂いを嗅いだのか。鼻の利く人狼が言うんだから確かだろうな。
記事を読んだ限りじゃあ、血の臭いは色濃く残ってたっぽいし。


「勿論、連続殺人としてあっちでもヤードが動いてるんだが、被害者は増える一方だ。」

「……もういい、とりあえず中身は抜きにして率直に言えよ。多分お前の予想は合ってるからさ。」


オレが事についての憤りを顔に出してそう言うと、佐久間はオレが思っていた通りの言葉を発した。


「間違いなく、犯人は"教会"だ。」


同族でも異形の血はとことん排除するつもりか。迫害だなんて、随分と残酷なことするなあ。


「ホムンクルスの製造といい、奴等の方がよっぽど人道に逸れてる。これじゃあどっちがカイブツなんだか。」


佐久間が歯を食い縛った。


「しかもこれ、吸血鬼のせいに見せ掛けて住民の不安と不信感を煽ってる。面倒なことになる前になんとかしないと。」

「というか、既に面倒なことになってるがな。」

「ま、確かに。で、どうするの?」

「…犯人を見つけるに決まってるだろ。まだ鬼道にもバダップにも言ってない。上にばれる前に、俺達で片付ける。」


佐久間の言葉に、オレは歪な微笑を浮かべた。つまり、教会のムカつく奴を殺せるんだ。


「楽しそうだね…。」


ただ、教会側がどうやって吸血鬼の血が混じった人間を見分けたのか。オレにはどうにも引っ掛かっていた。

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